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気候変動による自然災害の多発、米中対立やロシアによるウクライナ侵攻などの地政学リスクの高まり、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックなどにより、BCP(事業継続計画)/BCM(事業継続マネジメント)の重要性は増しています。本連載では、ESG時代に日本企業に求められるBCPとリスクマネジメントについて、BCPの概要から最近の動向、課題などについて、事例を交えながら解説します。
今回は、BCP4.0時代に企業に求められる「有事のステークホルダーコミュニケーション体制構築」のポイントについて解説します。

 

有事のステークホルダーコミュニケーションの重要性


本稿でいう「有事のステークホルダーコミュニケーション」とは、災害等が発生した際に自社の製品・サービスへの影響や復旧までの対応状況などを利用者に周知し、理解の促進を行うことで、レピュテーション被害の抑制するだけでなく自社の企業価値向上も見据えたコミュニケーション活動を指します。

近年、大震災や大型台風、大規模な感染症など、企業経営を揺るがす大型災害事象が度々発生しています。東日本大震災や新型コロナウイルス感染症といった災害事象への対応経験を活かし、既に事業継続・復旧体制の整備(BCP策定)に取り組んでいる企業が多く見られる一方で、有事におけるステークホルダーとの適切なコミュニケーション体制・方法を明確に定義できている企業は多くありません。

BCPを整備したうえで、有事の際に適切な事業継続・復旧対応を実施したとしても、ステークホルダーコミュニケーションが後手に回ってしまうことで、二次被害の発生や企業のレピュテーションの低下を引き起こす懸念があります。

有事に適切なステークホルダーコミュニケーションを実施することにより、従来のユーザーから“さらなる信頼”を得ることに加え、同業他社と比較してより良い対応を行うことができれば、”新たなユーザー“を獲得し、結果的に事業全体の発展や企業価値向上につなげられる効果も期待できます。
 

有事のステークホルダーコミュニケーション体制の整備


有事のステークホルダーコミュニケーション体制の整備にあたり、『体制』および『メッセージを発信する際の要素』の2つの観点からポイントを解説します。

1.体制整備における3つのポイント

①ステークホルダーの明確化
あらかじめ自社の製品・サービスに関わるステークホルダーを洗い出すとともに有事におけるステークホルダーへの影響分析を実施することで、どのような情報が求められるのか、顧客を含むステークホルダーの目線での情報発信内容を検討することができます。

具体的には、株主や顧客(取引先・エンドユーザー)、サプライヤー、委託先、従業員、グループ会社、NGO(非政府組織)/NPO(非営利組織)などが想定されます。

②対応体制の整備
既存の災害対策本部体制との連携を考慮し、“誰が”“いつまでに”“どのように”ステークホルダーとコミュニケーションを行うのか明確にしておくことが重要です。体制整備の過程において、ステークホルダーとコミュニケーションを行う際に必要な情報を明確にすることや、その情報の収集方法についても整備しておくことがポイントとなります。

また、近年では記者会見やテレビCMのみならず自社のSNSを活用してコミュニケーションを実施するケースも多くなっています。そのため、実際にコミュニケーションを実施する際には、SNSなどの発信媒体を主管する部門や、広報・マーケティング担当、法務・コンプライアンス部との連携も必要になるため、部門間での横連携の方法も明確にしておくことが重要となります。

③ 対応判断基準の明確化
災害の種類や規模によって、どのようにコミュニケーションを取るのか基準を整備しておくことも必要です。東日本大震災の際には多くの企業がテレビCMを停止しました。また、台風による大規模な被害が発生した後に、テレビCMの最後にお見舞い文を載せている事例を目にしたことがある方も多いと思います。

テレビCMのみならずニュースリリースや記者会見、SNSなどコミュニケーション媒体が多岐にわたるなか、有事の際は、発信したメッセージに対しステークホルダーがどのような反応を示すか予測が困難で場当たり的な判断となる恐れがあります。

災害規模や被害状況に応じて、発信方法や媒体ごとの基準をあらかじめ整備しておくことで、自組織として一貫したコミュニケーションが可能になります。また、グループ会社も含めたグループ全体のコミュニケーション基本方針を定め、グループとして一貫した対応ができるようにルールを整備しておくことが重要です。

体制整備における3つのポイントを踏まえて災害時コミュニケーションの対応体制を整備することで、コミュニケーション対象(=ステークホルダー)や災害時における各人・各部門の役割や連携方法、情報の発信基準が明確となり、必要な情報を適切なタイミングと媒体で、適切なステークホルダーに発信することが可能となります。