布製担架を使用したケガ人搬送訓練。想定以上の人員が必要なことが判明

テクニカルセラミックスを開発・生産するクアーズテック(ジョナサン・D・クアーズSr. 社長、東京都品川区)は、2012年に東京都が帰宅困難者対策条例を策定したことを機に一斉帰宅抑制対策に乗り出した。独自のプログラムを追加した実効性の高い訓練や、被災時の心理や使い勝手に配慮したきめ細かな備蓄が評価され、2021年には東京都一斉帰宅抑制推進モデル企業に認定された。同社の取り組みを紹介する。

クアーズテック
東京都

※本記事は月刊BCPリーダーズvol.34(2023年1月号)に掲載したものです。

事例のPoint

❶社内滞在をイメージした訓練プログラム

・担架を使った搬送、簡易トイレの使用、非常食の試食などの追加プログラムを実施し、発災時の社内滞在を具体的にイメージ。実践に近づけて大災害発生時の戸惑いを少しでも減らす。
 

❷体験による学びから常に課題を発見

・実際に担架搬送を行ってみる、非常食を試食してみるといった体験でその実効性を確認。人員が足りない、パッケージの開け方がわからないなど、課題を発見し改善する。
 

❸備蓄品の内容や保管方法などきめ細かく配慮

・非常時の食事がもたらす「楽しみ」「安らぎ」の効果を重視し、多様なメニューを用意。また環境をできるだけ心地よく保てるよう備蓄の品ぞろえや保管方法にも配慮。

社内滞在をイメージした訓練プログラム

独自のテクニカルセラミックスを開発・生産するクアーズテックが一斉帰宅抑制対策に乗り出したのは、東京都が2012年に制定した帰宅困難者対策条例がきっかけ。「一般的な避難訓練や消火訓練に力を入れていましたが、条例の制定により一斉帰宅抑制に則ったプログラムを開始しました」と、人事総務部・管理担当の菅井照夫氏は振り返る。

備蓄品は本社に勤務する約120人を対象に対策を進め、初年度には3日分の水と非常食をそろえた。その後、「災害は季節を選ばない」と、毛布やアルミブランケットを追加。2020年からの新型コロナウイルスの流行では消毒液やマスクも加えた。ヘルメットは個人に配布。主に各自のデスクに置かれている。現在は、大規模地震などの際は社内での帰宅抑制が基本ルールだ。

そのため同社では、年に2回開催される入居ビルの避難訓練に合わせ、独自の防災プログラムを追加実施している。

避難訓練は地震の発生により机の下に隠れるところから始め、自衛消防隊が怪我人を確認、フロア内被害を見極め、各フロアから1階まで階段で移動する。消火器や消火栓を使う訓練もある。

追加しているプログラムは、基本的な災害対策の講習から担架を使った搬送訓練、簡易トイレの使用法や非常食の試食など。避難訓練と同時に追加プログラムを実施することで、発災時の社内滞在を具体的にイメージする効果を期待している。

コミュニケーション担当を務める篠生明氏は「シンプルな避難訓練だけでなく各種プログラムを追加することで実践に近づけ、大災害が発生したときの戸惑いを少しでも減らすことが目的」と話す。

非常事態発生時の行動についての教育

講習では東京都の条例をもとに、救助や消火活動などのリソースが限られた中でむやみに移動せず、人命救助の目安となる3日間を社内で過ごす重要性を繰り返し説明。一斉帰宅が救助活動を妨げることや、火災・建物倒壊などの二次被害に遭遇する可能性を高めることなどを学ぶ。「断水時のトイレ対応」として簡易トイレの使い方も、ポイントを抑えられるよう詳しく説明している。

体験による学びから課題を発見

説明とともに重要視しているのが体験による学びだ。例えば、オフィスのあるビルの10階から1階まで救護者を搬送すると、布製担架では6人の人員が必要なことがわかったという。持ち手の工夫で「1人や2人でも運べる」とされていたが、思った通りにはいかなかった。が、事前に「6人なら搬送できる」とわかれば、発災時にスームズに対応できる。

寝袋式の担架では、別の問題が明らかになった。人を乗せて運んでみると、生地がすべりやすく落ちそうになったという。結果的に用途を変更し、低体温を防ぐための寝袋として活用。菅井氏は「実際に試さないと本当のことはわからない。いざという時に役立たせるには実践が重要」と語る。

試す重要性は資機材に限らず、非常食でも同様。例えば、アルファ米の製品一つとっても、乾燥剤やスプーンを取り出さずに水を入れたり、パッケージを展開できず水を注ぐ量の目安ラインを見ないまま注水したりと、慣れない非常食の調理法を誤り、手を焼くこともあるという。「とにかく上司からは、実際に使って見るように言われている」と篠生氏も話す。