再発防止の観点から、知床観光船の海難事故を検証する(写真:写真AC)イメージ写真

悲惨な事故が起こった。知床観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」の事故である。知床観光船の社長会見で土下座を繰り返し謝罪する姿にも、杜撰な安全管理、意識の低さなど責任を追及する厳しい声が止まない。

事故自体が悲惨なものであり、救助・捜索もままならない厳しい海域である事実を考えると、二度と同じ事故が起きないように再発防止が必要だ。しかし連日の報道を見る限り、そのような観点が欠落する違和感を禁じ得ない。本来別のテーマで寄稿する予定だったが、リスク管理や安全管理の、再発防止観点で検証すべき内容と感じ、本事故を検討することにした。

今回のメディア報道およびメディアで発言するコメンテイター、芸能人などは、一様にヒステリックな感情論に終始している。犯人捜し、悪者を仕立て上げて、糾弾、感情的な総攻撃をしており、本質的な問題には意識が向いていない。

確かに被害関係者の心痛に寄り添う意味では、共感を得られるのだろうが、この空気感一色に染まっていては、国民総洗脳のプロパガンダ、現代の魔女裁判の様相を呈してしまい、再発防止に向かえない。

同社の運行上の杜撰な運営、設備の維持管理などの問題はすでに発覚している。だが、事はそう簡単ではない。

事故発生の問題点

(1)寒冷海域における安全対策

最大の問題を問うならば、寒冷海域における安全対策が特段定められておらず、温暖な海域と同様の安全基準であったようなのだ。

救命胴衣に保温機能はない(写真:写真AC)

あるコメンテイターは「救命胴衣を着ていても助からなかったのはなぜ?」と、余りにも惚けた疑問を繰り返していたが、水温10℃以下で人間が意識を保っていられるのはわずか、5℃以下では15分程度が限界という。そして当たり前だが、救命胴衣に保温機能はない。従って寒冷海域の海に人間が投げ出されたら、生存はほぼ不可能なのだ。

この事実は、タイタニック号の海難事故で多くの人に知られることとなった。海に投げ出された人は助からず、「救命いかだ」に乗れた人は助かったのだ。この歴史的事実から学ぶべきは、寒冷海域を航行する船舶の安全対策は、万が一沈没しても生命をつなぐ「救命いかだ」のような水に浸水しない救命器具が必要不可欠だということではないのか。

辛坊治郎氏も同様の見解を発信している。自身が遭難事故にあった経験から、水温20℃以下の寒冷水域を走る観光船には「救命いかだ」や「防寒具」などの必要性を訴えている。もし今回、この実態に則した安全対策、救命器具が装備されていたら、確かった命もあったのではないだろうか。