今、非財務情報開示が注目されている。岸田総理は1月17日施政方針演説で年内に非財務情報の開示ルールを策定するとした。また18日の「ダボス会議」では、中長期的な企業価値向上を進める企業に、より多くの資金が集まる仕組みを作っていくことが重要とし、人的資本投資など非財務投資に関する開示制度をつくっていくと演説した。

非財務情報のマネジメントは「守り」であるリスク管理の要素がある一方、中長期的な企業価値創造である「攻め」のコミュニケーション戦略における機会創出につながる。今回は非財務情報のコミュニケーション戦略の考え方について考察していきたい。

なぜ非財務情報が重要なのか

IIRC(国際統合報告委員会)が発表している世界50カ国、CEO41名、CFO177名を含む経営幹部を対象とする調査結果では、87%が非財務要素を経営判断に生かしている、もしくは積極的に生かそうとしていると回答し、96%が財務情報と非財務情報を統合することで、中長期的に良い経営判断につながると回答した。一方で、投資家やステークホルダーの求める非財務情報を提供できていると回答した経営層は24%で、多くの企業が非財務要素に対して課題を持っている。

画像を拡大 引用元:Purpose Beyond Profit(IIRC 2018)
 

国内では、有価証券報告書で、2019年3月期からコーポレート・ガバナンス、政策保有株式、役員報酬、2020年3月期からは経営方針・戦略、事業等リスク、MD&A情報(経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析)、監査の状況などの開示の拡充が図られている。加えて、最近はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)も注目されている。

このような非財務情報開示拡充の流れの背後には、情報開示を通じて機関投資家をはじめとするステークホルダーと、長期的な視点に立った対話を促し、長期的な企業価値の向上を目指すという考え方がある。

非財務情報のうちESG/SDGs関連の情報は有価証券報告書より、自主的な開示書類である統合報告書、アニュアルレポートやCSR報告書・サステナビリティ報告書、またはウェブサイトで開示される例が多い。

非財務情報開示の課題

一般財団法人企業活力研究所が2018年に発表した非財務情報開示のあり方に関する調査によると、5 年以上の時間軸で開示ができている企業は約 1 割にとどまり、過半数が 3 年未満であった。

中長期視点から、非財務情報を将来の企業価値と結び付けて開示・説明すること、本業のビジネスと非財務情報を関連付けることが開示の 2 大課題として挙げられる。

また、非財務情報開示の有無がレピュテーションやステークホルダーの選択に影響を及ぼす環境が整ってきている一方、国内ではやや投資コミュニティに偏っている傾向がある。本来、企業によって重要なステークホルダーは異なる。ステークホルダーが置かれている利害関係、地域や文化、世代や文脈などにより関心は異なり、変化していく。よって、多様なステークホルダーに向けた情報開示のあり方は、コミュニケーション戦略の中でもマネジメントを行う必要がある。