2014年、労働安全衛生法が改正され、重大な労働災害を繰り返す企業に対し、厚生労働大臣が「特別安全衛生改善計画」の作成を指示することができるようになりましたが、労働災害の連鎖は完全には無くなっていません。前回は、ジェームズ・リーズンやシドニー・デッカーなどのリスクマネジメントの専門家たちの理論をもとに、「事故発生のメカニズム」として、3つの事故モデルを解説しましたが、今回は、各産業の特徴に基づき「どの事故モデルを採用すれば、自社の事故防止に役に立つか?」について考えてきます。
■解説 ホルナゲルによる産業の特質
産業安全や事故調査、大規模社会技術システムを専門領域としている南デンマーク大学教授のエリック・ホルナゲル(Hollnagel, Erik)は、各産業の特質として以下のような分類を行いました。
この図は、システムの構成要素と結合の密接度(Coupling)を縦軸、システムやプロセスの説明や描写のしやすさを横軸に取り、各産業をプロットしています。
縦軸の結合が「密接」な場合とは、プロセス全体が目的達成の唯一の方法としてデザインさせており、シーケンスが不変で、処理の遅延が許されない場合をいいます。例えば「原子力発電所」は、プロセス全体が核燃料による発電のためにデザインされていて、シーケンスは不変(燃料を核から他の物質に代用できない)ため、密接度が「高い」にプロットされています。一方、「ゆるい」場合とは、目的の達成に多くの方法があり、システムを構成するユニットやパーツに代用品を用いることができ、シーケンスも変更可能な場合を指します。また、プロセスの遅延にも柔軟に対応可能です。製造業の密接度が「ゆるい」にプロットされているのは、工場の組み立てラインで製品の製造中に何らかの問題が生じたとしても、後から規格に合った部品などを入れ替えて完成品を生産できるためです。
横軸の、システムやプロセスの説明や描写のしやすさで「容易」とされているのは、システムやプロセスの機能原理が既知なものを指し、「困難」とはシステムやプロセスの機能の一部または全部が未知であり、描写が完成する前にシステムが変更されることもあり得るとされている業種になります。
ホルナゲルの分類には全ての業種が網羅されているわけではありませんが、図の中の類似の業種や、上記説明により自社が1~4のどのあたりに該当するかを検討してみてください。
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