2018/04/26
防災・危機管理ニュース
良好な企業風土がIT人材の質向上に

情報処理推進機構(IPA)は、IT人材育成の施策に必要となる基礎データや動向・課題について2017年度の調査結果をまとめた「IT人材白書2018」を24日に公表。「社内の風通しが良い」「自社のビジョンや価値観が従業員に行き渡っている」など企業文化・風土が良好な企業はIT人材の質も良好なことがわかった。また「自己啓発支援」「年齢や勤続年数によらない抜擢」「社内交流の活性化」など社員のモチベーションを高める施策が、組織の企業文化・風土の醸成に有効であることも明らかになった。
IPAでは2008年から毎年、IT人材を取り巻く環境や動向などを把握することを目的として調査を実施し、「IT人材白書」として公表している。今回2018年白書では、国内企業7000社を対象にアンケート調査を実施し、このうちIT企業1319社、ユーザー企業974社、ネットワークサービス実施企業219社の全2512社から回答を得た。
IT業界では、IoTやビッグデータ、人工知能(AI)などの技術を活用して新たな付加価値を創出する「第四次産業革命」により、それにより実現する超スマート社会「Society5.0」への変化が起きつつある。求められるIT人材像にも変化が現れており、サイバーセキュリティに関する実践的能力をもつ人材へのニーズに変わりはないものの、既存事業をITにより効率化やコスト削減をおこなう課題解決型人材だけでなく、AIなど最新技術を用いた高付加価値を創出する価値創造型人材へのニーズも高まっている。
今回の調査では、2つのタイプの人材像の能力について15項目を挙げ、人材に求める質を複数選択で聞いた。「高い技術力(IT)」「IT業務の全般的な知識・実務ノウハウ」「自発的に動く力」「顧客要求への対応力」の4項目は両タイプに共通して求められる一方、「問題を発見する力(探索能力)・デザイン力」「新しい技術への好奇心や適用力」「独創性・創造性」は価値創造型人材で求められる割合が高く、「IT業務の着実さ・正確さ」は課題解決型で求められる割合が高くなるなど、求められる人材像によって質の違いがあることが明らかになった。
企業文化・風土の醸成度とIT人材の質的不足との相関関係についても調査した。「企業文化や風土」を評価する指標として以下の7項目を提示し、この指標がどれだけ自社にあてはまるかを42点満点で自己評価。企業文化・風土の自己評価点(以下、風土点)とIT人材の質的不足感の度合いに相関関係があるかを分析した。
7項目は以下の通り。
・社内の風通しがよく、情報共有がうまくいっている
・お互い成長する・学びあう、育てる、助け合う土壌がある
・自社のビジョンや価値観が従業員に行き渡っている
・多様な価値観を受け入れる/重んじる
・自社には他社とは違う特徴(長所)がある
・仕事を楽しもう・仕事の中にも遊び心を持とうとする姿勢がある
・リスクをとって新しいことにチャレンジする
これによると、風土点が高い企業ほど人材の質的不足感が低い傾向が明らかになった。IT企業では、風土点1〜20点の企業はIT人材の質が「大幅に不足している」と回答する割合が43.2%と多かったのに対し、風土点42点満点の企業は質が「大幅に不足している」と回答する割合が18.2%と低かった。IT企業以外のユーザー企業でもほぼ同様の傾向が見られた。
さらに調査ではIT人材の質向上に効果のある施策として12項目を挙げ、それらの実施数と風土点との相関関係についても分析した。
12項目は以下の通り。
・実力に応じた待遇(年齢や勤続年数に依らない抜擢など)
・多面的な視点での公正な評価(上司以外や顧客からの評価など)
・努力やスキル向上、成果などを称える表彰
・直属の上司でない指導者や相談者の導入(メンターなど)
・適切な職種転換(適材適所、希望の受け入れ、見直しなど)
・自己啓発支援(費用補助、学ぶ場と機会の提供など)
・社内交流の活性化(組織や部門を越えた社員交流の場の整備、上司、同僚との良好な関係性の構築など)
・ 社外活動の設定、参加促進(学会参加、コミュニティ活動、異業種交流会など)
・勤務場所や時間の自由度の拡大
・兼業や副業の許可
・最新技術を利用しやすい場の整備
・その他
分析の結果、風土点が高い企業ほど施策の実施数も多い傾向があることがわかった。全12の施策のうち8〜12を実施している企業の割合は、IT企業では風土点1〜20点の企業で1.8%にとどまったのに対し、風土点が高くなるほど実施数が増え、42点満点の企業では27.3%にのぼった。ユーザー企業も同様に、全12の施策のうち6〜12を実施している企業の割合は、風土点1〜20点の企業で1.3%、42点満点の企業では10.0%となった。調査では、良好な企業文化や風土を醸成していくひとつの方策として、従業員のモチベーション向上に関する施策を実施していくことが有効であることを実証した。
■ニュースリリースはこちら
https://www.ipa.go.jp/about/press/20180424.html
(了)
リスク対策.com:峰田 慎二
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方