緊急事態宣言・まん延防止等重点措置が解除へ(写真:写真AC)

緊急事態宣言およびまん延防止等重点措置が解除された後、日常生活や経済活動はどうなるのか。政府の分科会は感染リスクが低いことを示す仕組みを活用して段階的に制限を緩和する方向を示していますが、企業はこうした動きに対応していくべきか。リスクマネジメントに関するコンサルティングを手がける本田茂樹氏に聞きました。

リスクコミュニケーションを深める「きっかけ」に

 
本田茂樹氏
ミネルヴァベリタス顧問/信州大学特任教授

現在の三井住友海上火災保険に入社、その後、出向先であるMS&ADインターリスク総研での勤務を経て、現職。企業や組織を対象として、リスクマネジメントに関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭をとるとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。

接種証明の活用は安全配慮義務か

どこまでいってもワクチン接種は本人の意思。接種の有無によって差別が助長されるような制度やその運用を慎むべきなのは当然で、問題は何が差別に該当するのかでしょう。

例えば医療機関や高齢者施設において、ワクチンを2回接種していない職員が患者や他の医療従事者を危険にさらすという観点から一定のエリアに立ち入らないようにする、これは差別ではなく区別ということで容認されるかもしれません。しかし国内の一般企業の職場で、例えばワクチンを打っていない人は出社を禁止しテレワークにする、そうした運用が通るかはこれからの課題です。

つまりケースバイケースで、いまの段階で何がマル、何がバツというのは非常に難しい。

もちろん、企業には従業員の安全を守る義務があります。建設現場におけるヘルメットの着用を例にとれば、着けたい人だけ着けなさいといった程度の指導では、到底、安全配慮義務を果たしたとはいえない。言葉による指導にとどまらず、朝礼時に職長が身なりを点検し、一人一人の着用を確認してから作業に送り出すくらいまでやる必要があるでしょう。

 

これをワクチンに置き換えると、接種は従業員本人の重症化リスクを下げるとともに、病床ひっ迫などの社会的混乱を緩和する効果も期待されます。その点で、建設現場のヘルメット着用よりも意味は深いかもしれません。

ヘルメット着用とワクチン接種を同等には扱えない(写真:写真AC)

しかし、ヘルメットの着用によるデメリットはせいぜい頭が蒸れる、暑いといった程度なのに対し、ワクチンはそれよりはるかに重篤な症状を引き起こす可能性がある。そのためヘルメットは「着けなさい」といえますが、ワクチンは「打ちなさい」といい切ることができません。