2016/09/28
誌面情報 vol52
編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年11月25日号(Vol.52)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年9月27日)
徳島県は2015年7月7日、ネット通販大手アマゾンジャパン、ヤマト運輸と災害時の物資輸送協定を締結した。南海トラフなどの巨大地震が発生した場合に、支援者がアマゾンの「ほしい物リスト」機能を通じて支援した物資を被災地に確実に届けるのが狙い。全国でも初の取り組みだ。「ほしい物リスト」機能とは、被災者自ら必要とする物資を登録してWeb上で公開し、支援者は物資を購入することで被災地を支援するサービス。東日本大震災では、約7000カ所以上の避難所や小学校、個人宅などに計10万個以上の支援物資を届けた。徳島県とアマゾンは昨年9月にサービス利用に関する協定を結んでおり、今回の協定では関連会社のアマゾンジャパン・ロジスティクスとヤマト運輸を加えることで、支援物資の確実で迅速な輸送を目指すという。
行政にはできないきめ細やかな支援を
「東日本大震災の時に最も画期的だと思ったのは、「ほしい物リスト」に掲載されている品目におよそ行政が対象にしないようなものが含まれていたことだった」と話すのは、徳島県危機管理部とくしまゼロ作戦課課長の坂東淳氏。行政が避難所に対して支援の対象にできる物品は、生活に最低限必要な食糧や水や衣料品、毛布などに限られる。
しかし長期化した避難所生活では、子どもに対してはマンガやゲームなどの娯楽品が、大人には度数の異なる老眼鏡やサイズ違いの長靴などのほか、し好品も必要となるケースがある。「ほしい物リスト」を活用すれば、そのような要望へのきめ細かい対応が可能だ。
しかしアマゾンにとって、3.11では「ほしい物リスト」の活用について大きく2つの問題点があった。1つめは、「なりすまし」問題だ。家が被災していなくても、「ほしい物リスト」を作成することで、物品を貰うことができてしまう。
3.11では、アマゾン社自らが1つひとつの「ほしい物リスト」についてなりすまし対策を講じる必要があった。この問題に関して、今回の協定では、県内に1300カ所ある避難場所を特定することで、なりすましを防ぐ仕組みを構築した。
2つめは物流の問題だ。民間宅配業者は道路規制が解除されるまで、被災地に入ることができない。そのため宅配業者が支援の準備ができても、品物が被災地に届けられないことがあった。
徳島県は、今回の協定により災害時には2社に対し速やかな緊急通行車両証の配布や、県の災害時情報共有システムによる道路状況に関する情報提供を実施する。アマゾンは、全国9カ所の物流倉庫に災害物資の特別仕分け場を設置し、迅速な物資の出荷を図る。
ヤマト運輸は、津波などの被害を受けにくい徳島県外の施設を代替の物流ターミナルとして活用するほか、必要であれば関西や中国地方の物流ターミナルも確保するとしている。
「物流拠点や仕分け人員の確保は、災害時の物資輸送にとって非常に大きな問題。この問題を民間業者が解決してくれるメリットは行政にとって大きい」(坂東氏)。

徳島県内の犠牲者をゼロに
徳島県は2008年、全国の都道府県に先駆けてBCP(事業継続計画)を策定。まだ内閣府が自治体のBCP策定ガイドラインを公表する前だったため、参考にするものがなかったという。
同県危機管理政策課調査幹の勝間基彦氏は、「当時、県内企業にBCP策定を勧めていたが、その前に自分たちが作らなければいけないと考え、手探りでBCP策定を開始した」と話す。
策定にあたっては、当時京都大学教授だった丸谷浩明氏(現東北大学災害科学国際研究所教授)からアドバイスを受けた。その後、東日本大震災が発生。
飯泉嘉門現知事の強い意向もあり、県の危機管理部では災害対策について、それまで単なる「南海トラフ・活断層地震対策行動計画」であったものを改め、東海・東南海・南海の三連動地震および活断層地震に備え、死者0(ゼロ)を目指すことを基本理念とした「とくしまゼロ作戦」とした。対応する部署の名称も「南海地震防災課」から「とくしまゼロ作戦課」に変更した。
減災にITを積極活用

坂東氏は、東日本大震災では県の連携担当として宮城県庁に支援に入った。東京から車で仙台に移動しながら後続部隊へのさまざまな情報提供を行うなか、Twitterで同僚や後輩に道路状況などを伝えた経験から、災害にITを活用することの必要性を感じたという。
その後、避難場所の位置情報をオープンデータ化して提供するなど、減災にITの積極活用を試みている。
「今後の課題は、高齢者などのPC弱者への対応と避難所への周知徹底。PC弱者への対応は、行政支所などによる代行入力などの仕組み作りを考えている。自治体にとっても、ブラウザから物品を選び出すだけで必要な物資が届くので、メリットは大きい。この仕組みを、災害が発生するまでに県内の避難所にどれだけ浸透させられるかが、これからの勝負だ」と、坂東氏は今後の意気込みを話している。
(了)
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