東北大学災害科学国際研究所教授 丸谷浩明氏

2003年に地方自治法の一部を改正するものとして、「官から民へ」の行政改革を反映して誕生した指定管理者制度。しかし、例えば避難場所となるはずの施設や公園では、行政と指定管理者が災害対応やBCP(事業継続計画)をどのように実施するか、いまだ曖昧になっている部分も多い。指定管理者と行政がBCPを構築する上で重要なことは何か。東北大学災害科学国際研究所教授の丸谷浩明氏に話を聞いた。

「指定管理者制度とは、公共が行ってきた施設運営を指定された民間主体が行うもので、サービスや利便性の向上と自治体の経費削減を目的に、「官から民へ」の規制緩和のなかで生まれた制度。災害などの非常時の対応については、あまり指定条件や協定のなかで規定されていない懸念がある」(丸谷浩明教授)。 

民間主体の活用は、例えば海外では、水道事業などのインフラ事業を民間企業が担うケースもある。さまざまな自治体から事業を任され、大規模に運営することで、利益を出すことが可能になるという。日本であれば大規模な民営化の例はJRだ。当時、国鉄はそもそも鉄道省から始まったものなので、私鉄よりも顧客サービスが悪いと批判されていた。乗客は「お客様」ではなく「利用者」であった。しかし民営化し、それが改善し、株式を上場することで財政にも寄与。現在は日本が世界に誇るサービスを提供できる会社に変身した。

指定管理者制度の意義
丸谷氏によると、指定管理者制度には大きく2つの意味がある。1つは行政に対して民間の活力を入れ、顧客に対するサービスを向上させること。お客様視点で施設運営を考えることだ。もう1つは、指定管理の期間がある程度長いことが必要だが、アウトソースすることによって、専門性の高い人たちが担当し、質の高い対応が期待できること。行政の担当者は異動のサイクルが早いため、専門性が高くなったところで他部署に移ってしまう。 

「民間に任せて成功しているケースも多いはず。例えば図書館であれば、「貸してあげる」ではなくて、「借りてもらっている」という意識が芽生える。自治体の監督で目標に対する達成度合いが評価されるし、利用者アンケートなどにも敏感になるはずで、さらにサービスが向上すると期待したい」(丸谷氏)。

災害対応は行政と連携して
一方で、公共施設を民間に任せることにより、災害時などでは「公のサービス」としての意味合いが低減するという懸念もある。しかし、この問題について丸谷氏は「例えば『災害時に指定管理者がどのような行動を取らなければいけないか」』などは、指示や協定のなかで明記すべき」とする。 

「指定管理者制度を活用しているとはいえ、施設は公共の所有物であることに変わりはない。指定管理者が運営している建物や公園が、災害時に避難所になったり一時滞在施設として活用されたりする場合、行政が主体的に対応すべきである」。 

重要なことは、指定管理者とそれを指定した自治体が、あらかじめ役割分担を明確にすることだ。例えば災害が発生し、避難する周辺住民に対して施設の開放をするなど初動体制についてはその場にいる指定管理者が行う。その後の本格的な避難所などの施設運営は自治体が中心となるなど、連携して取り組まなければ合理的な対応はできないという。

行政BCPに必要なものは「受援力」


丸谷氏は「現在、行政のBCP構築で、特に活用して欲しいのは他の自治体からの受援。外部の支援を受ける業務を明確にすることで有効性が高まる」と指摘する。 

東日本大震災の例を出すまでもなく、昨今の水害や土砂崩れなどで被害が発生した自治体に、都道府県や姉妹都市から応援職員を派遣することは珍しくないが、現地に来てくれた職員に何をしてもらうか明確化している自治体はまだ少ない。一方で、災害が発生すれば行政の業務量は平常時の数倍に跳ね上がる。同じような業務に精通している他の団体の職員に支援が得られれば、自分たちは自分たちでしかできない、地元の人でしかできない作業に注力することができる。特に地元の事情を知らなくても対応できる仕事は応援職員に任せてもいい。どのような業務を応援職員に任せるか、BCPのなかであらかじめ定めておくことが大事だ。 

また、鳥取県と島根県は災害時の相互応援協定を結んでいるが、普段から災害対応部局の人事交流をしている。お互いの災害対応のやり方を平時から理解しておくことで、災害時の応援をより機能的に果たせる。また、災害が発生して応援に駆け付けた時に、先方に自分の自治体職員がいれば話も早い。 

丸谷氏は「指定管理者も、自治体とともに、大規模災害時の受援イメージを構築しておくのが望ましい。例えば支援物資が自分の施設にいる避難者にどのくらい必要になるかは、指定管理者も状況把握には努めてほしいが、そもそも最終判断するのは災害対応に責任を有する自治体の職員が担うべきである。重要なことは、自治体とどちらが何をするかをあらかじめ話し合い、決めておくこと。そして合意した事項に対し、訓練などを連携して行うことでお互い出来る範囲で改善していくことだ」と話している。