【前回まで】

前回、戦略シナリオ作成のための5ステップに沿って、4つの異なるシナリオを作成した中古車販売店A社の例をお話しました。今回は、その戦略シナリオをどのように活用していけばいいのかについて解説していきます。

□解説 確率と影響度ではなく、確率と速度

作成した戦略シナリオには、企業にとってさまざまな「不確実性」が存在していると思います。その不確実性には、私たちが予想し得るトレンドの直接的な結果として生じる不確実性もあれば、まったく予想し得ない変化から生じる不確実性(例:今回のコロナ禍での社会生活の変化に代表されるようなもの)もあるでしょう。特に後者の変化は、場合によっては企業を成長させる機会を獲得できる可能性を持つものであり、予測する価値のあるものだといわれたりします。よって、企業はできる限りにおいて将来を予測し、その変化に対応できるための準備をしておく必要があります。

しかしながら、不確実性の多くはまだほとんど見えていませんし、詳細さや洞察のレベルも十分ではありません。そのような中、作成したシナリオ全てに対応できるだけのさまざまな対応策を取ろうと思っても、手間やコストが掛かり過ぎてしまいます。

ここからの考え方は、リスクマネジメントプロセスと非常に似ていて(リスクマネジメントでは、企業に潜在するさまざまなリスクの全てに対応することは現実的ではないため、さまざまなリスクを「確率」と「影響度」で評価し、対策の優先順位をつけていく)、不確実性でも、その結果として取るべき対策に優先順位付けをしていくのです。

ただし、評価においてはリスクマネジメントで一般的な「確率」と「影響度」ではなく、「確率」と「影響の速度」に焦点を当てることが大きく異なります。これは「不確実性は潜在的に重要であると仮定しなければならないので、あえて『影響の程度』の概念は無視する」との考え方によるものです。

確率は「高い(おそらく起こる)」と「低い(ありそうではない)」で評価されます。また、影響の速度は「速い」と「遅い」で評価されますが、速度の評価に当たっては、自分たちの変化できる能力と関連付けて評価することがポイントです。例えば、今後半年の間にある変化が起こるとして、自分たちがその状況に対応できるまで1年程度かかるとすれば、不確実性は「速い」と評価します。もし、3カ月程度でそれに適応できるとするならは「遅い」という評価です。

その2つの評価軸によって、下図のようなマトリクスが出来上がります。

これは、不確実性の評価に対して4つ対応を示すモデルとして知られ、それぞれの対応の頭文字をとって「PAPAモデル」といわれるものです。