2016/09/11
誌面情報 vol48
Q2非正規従業員の増加や技術者の退職に対応するためには、何から改善すればよいのでしょう。マニュアルの見直しから着手すべきでしょうか。
基本的な戦略であるマニュアルは不可欠ですから見直す必要はあります。しかし、マニュアルだけでは「いざ」という時に動けません。
さまざまな事業所での災害訓練をみると、マニュアル以外の出来事に臨機応変に対応できない弊害を目の当たりにします。特に高度なマニュアルを準備している事業所ほど、準備は万全だと過信しがちです。
本当に必要なのはすぐに何をしたらいいかが分かるチェックリストだと思います。必要なところはチェックリストの確認で済む方法の方が今の時代により適していると思います。
その上で訓練が不可欠になることは改めて言うまでもありません。
Q3公設消防隊との連携を可能にするためには何が必要でしょうか。
各組織の自衛消防隊と広域の公設消防ではニーズが違うのでしっかり整理しないと難しいと思います。ただ、目的や基本的な流れは同じなので、すり合わせは可能でしょう。
東京の大手町周辺で自社ビルをいくつも持つ企業の自衛消防組織の連携を指導したことがありますが、災害が起こったら他のビルの自衛消防が駆けつけ助け合います。
しかし、これは自社ビルという特異な例です。実際には、自社ビルの消火活動にあたるのは自衛消防で、周辺の一般市民や建物を守るのは公設消防の役割になります。こうした連携なども視野に入れ、合同訓練などを考えたほうがよいと思います。
Q4今後、考慮すべき社会変化には何がありますか?
私が特別参与を務める日本消防設備安全センターは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて東京駅周辺を舞台に行われる「東京駅周辺高精度測位社会プロジェクト」の参画にも尽力しています。
屋内外の高精度な位置情報と地図とスマートフォンなどを結びつけ、商業利用だけでなく、見過ごされがちな災害時の避難など、災害対策の観点から役立つサービスの提供を目指しています。このような技術の環境の変化にも注目すべきで、今後新しい技術を取り込んだ自衛消防隊を考える時機に来ていると思います。
自衛消防隊はいざというときのための組織ですから、実際に活動するのは生涯に1度あるかないかです。社会構造や情報化社会等の進展は早く、従来は良しとされていたシステムでは追いつかず機能しない部分も顕在化してくると思います。適応できなければ被害を十分に抑制できず、クライシスマネジメントの目的を十分に達成できないことになります。
Q5自主消防力をアップさせるポイントはどんなことでしょう。
事業所の形態や自衛消防隊ごとに状況が全く異なり、簡単にはアドバイスできませんが、強いて言うなら、ポイントの1つとして、火災対策が中心の自衛消防隊の訓練を、少し別の角度からアプローチしてみるということです。
例えば、高層ビルの場合でしたら、1度に数千人が逃げるので、外に避難させたら終わりではなく、収容先などとの連携を見据えた取り組みが必要になると思います。より実践的な訓練のシナリオを作れる人をいかに育てていくかということは重要な課題です。
安全に対する意識が高い企業ほど生き残るという認識が広がれば、企業の存続のために何をすべきか、社会状況の変化に合わせて考える機会は増えると思います。
(了)
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