(2)ICSの特徴
複数の機関が連携して危機に対応するためのICSには14の特徴があります。  
①統一された用語の使用(Common Terminology) 
他の組織と連携して対応を行うことを想定し、各機関の専門用語ではなく分かりやすく平易な言葉を使用するとともに組織の名称や役割の名称なども統一すること。
②権限の委譲ルールの明確化(Transfer of Command) 
原則として現場への先着隊の責任者が指揮を執るが、より適切な資格を持つ指揮官が到着した場合、法によって規定されている場合、事案の性質・複雑さが変化した場合など必要に応じて権限移譲を行う。“誰もが指揮官になる”ということ。
③指揮命令系統の統一(Chain of Command & Unity of Command) 
全ての指示を自分が所属するICS組織から受けることで誰が誰に指示をするのか、自分は誰に報告すべきかなどを明確にし、指揮系統を一元化するということ。「一人の人間から指示を受け、一人の人間に報告」する組織体系を構築すること。
④複数組織が関与する現場での統一指揮(Unified Command) 
それぞれの組織がバラバラに動いては非効率なので、合議形式に基づいて、各機関の指揮官があたかも1つの頭脳となって、幕僚スタッフと部隊を共有し、それぞれの組織を1つのチームとして動かせるよう統合指揮を行うこと。
⑤目標による管理(Management by Objectives) 
単一、複数組織に関わらず、危機対応は共通の目標を明確にしておく必要がある。共通目標があれば、指揮官が詳細の命令を出さなくても自律的な行動が確保できる。
⑥当面の災害対応計画策定(Incident Action Plan) 
災害の発生後に作成。事故の状況に応じて柔軟に動ける計画を策定し、行動し、不備があれば改善するいわゆるPDCAサイクルを回していくこと。様式は統一化(標準化)すること。
⑦事案規模に応じた柔軟な組織編制(Modular Organization) 
あらゆる事案において大なり小なり共通に必要となる5つの機能(指揮調整:Command、事案処理:Operation、計画・情報:Planning、後方支援:Logistic、財務管理:Finance)を基本として、災害時に必要なリソース(資源)を災害の規模に応じて使い分ける。道具箱に例えるなら、この事案はハンマー1本で十分、ある事案に対してはハンマーだけでなくドライバーも取り入れるなど、組織を柔軟に大きくしたり、小さくしたりできるようにすること。
⑧監督限界(Manageable Span of Control) 
ICSでは1人の指揮者が有効に管理できる数は、3人~7人と規定。ただし望ましい数は5人程度。
⑨統合された資源管理(Comprehensive resource Management) 
人物、資機材全てを含めたリソースを総合的に管理すること。自衛隊、警察、海上保安庁、消防のヘリは何台あるのか? どんな資機材を持っているのか? どんな人がいるのかなど。「顔の見える関係」も大切。
⑩統合された空間利用(Integrated Facilities Management) 
現場指揮所をどこにつくるか、待機所をどこにつくるか、宿営地をどこにつくるか。
⑪統合された通信システム(Integrated Communications) 
通信システム、操作要領などを統合的に運用できるようにすること。
⑫統合された情報処理システム(Information and Intelligence Management) 
さまざまな情報の中から重要な情報、インテリジェンスを導き出すこと。そのためにはCOP(Common Operational Picture:情報認識の統一)が不可欠。
⑬災害対応業務の透明化・質の確保(Accountability) 
どこの現場で、どこの部隊がどんな作業をしているか「見える化」することで災害対応の質が確保できるという考え方。例えば現着報告などのルール化など。
⑭計画に基づく人員、資機材の投入(Dispatch/Deployment) 
必要なものを必要なとき必要な場所に投入できるようにすること。

6 ICSの観点から見た大阪市消防局と海外救助隊の活動の検証 
今まで、海外救助隊に対する消防の対応と米国の危機対応システム(ICS)について説明をしてきましたが、大阪市消防局と海外救助隊の連携をICSの観点から見るとどのような活動であったか、ここでは主にICSを取り入れている米国隊との活動について検証していきたいと思います。

(1)ICS14の特徴との検証

①統一された用語の使用 
ICSに定めるような統一された用語は使用されませんでしたが、意思疎通については通訳または外務省のリエゾンを通じて特段問題なく活動を行っていました。ただし、あらかじめ統一用語を使用していれば、よりスムーズな連携が期待できたのではないかと考えられます。なお、用語については、隊員だけでなく、通訳、外務省のリエゾンにおいても覚える必要があります。
②権限の委譲ルールの明確化 
権限委譲のルールは、そもそも消防において決められていますし、また、「各国合同指揮本部」などの場でも調整が行われました。
③指揮命令系統の統一 
活動拠点に設置した「各国合同指揮本部」では、活動状況・要救助者(遺体も含めて)の発見状況などについて指揮支援隊で一括管理するなど指揮命令系統を一元化しました。
④複数組織が関与する現場での統一指揮 
「大船渡市災害対策本部調整会議」「大船渡消防本部調整会議」「消防隊活動調整会議」「各国合同指揮本部」において、関係機関が集まり、合議形式に基づいて、統合指揮が行われました。
⑤目標による管理、⑥当面の災害対応計画策定および⑬災害対応業務の透明化・質の確保 
活動方針、活動中の徹底事項を決める事により、活動の円滑化、業務の透明化、質の確保が図られました。ただし、ICSに定める共通の報告様式などはなかったので、あらかじめ報告様式を共通化することにより、活動及び活動報告がさらに円滑化できるのではないかと考えられます。
⑦事案規模に応じた柔軟な組織編制 
「各国合同指揮本部」では、指揮調整(Command)を指揮支援隊長(大阪市消防局)が担当し、事案処理、救助活動(Operation)を米国隊、山形県隊他が担当、計画・情報(Planning)を指揮支援隊(大阪市消防局)が担当しました。
⑧監督限界 
前掲の「現場活動時5人1組などで活動を展開する場合があり、その際は通訳などが足りなく、調整を図りにくくなる」という課題については、あらかじめ3人~7人で行動することを想定して、無線機を増やしたり、指揮本部に通訳を数人配置するなどの対策を取ることにより、問題が解決できるのではないかと考えられます。
⑨統合された資源管理、⑩統合された空間利用、⑭計画に基づく人員、資機材の投入 
各会議を開催し、情報を共有することにより、関係機関の資源の把握及びベースキャンプの有効な設置ができました。また、検索エリアを8つに分割し各機関に担当を割り振り効率良く活動を行うことができました。
⑪統合された通信システム、⑫統合された情報処理システム 
市災害対策本部の一角に1名が常駐し、衛星電話で情報交換、連絡。活動中は、「各国合同指揮本部」に1名が常駐し、災害対策本部とは衛星電話を使い連絡、各国の救助隊に随行している連絡調整員とは無線で情報交換を行い、各部隊の活動管理を実施。 

2名は海外救助隊の連絡調整員として活動支援及び付近住民からの情報収集を実施しました。