2015/01/25
誌面情報 vol47
Incident Command System
地方公共団体金融機構 合田克彰
東日本大震災のような大規模災害時には、国内だけでなく海外も含めたさまざまな機関が連携して対応にあたることになる。そのためには、言語や習慣が異なっても、共に活動ができる災害対応の標準化されたルールが必要になる。その標準化されたルールとして世界的に浸透しているのがアメリカのICS(Incident Command System)だ。元国際緊急援助隊レスキューチーム(JDR)副団長・国際消防救助隊(IRT)総括官で、現在、地方公共団体金融機構リスク管理統括課次長の合田克彰氏に、東日本大震災において日本の消防と海外の救助隊はどのように連携したのかを例に、ICSの具体的な要素を解説してもらった。
1 はじめに
2011年3月11日、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の地震が発生し、東日本に甚大な被害が発生、全国の消防、警察、海上保安庁、自衛隊などが総力をあげて救助活動を行いました。救助活動には日本国内だけでなく、海外からも29の国、地域、機関から救助隊・専門家チームなどが派遣され、消防としては、緊急災害対策本部(以下「緊対本部」という)から消防庁への要請に基づき、7カ国の救助隊の活動を支援しました。
今後、東日本大震災のような大規模災害時には、国内だけでなく海外も含めてさまざまな機関が連携して活動できる体制、すなわち言語、習慣が異なっても活動できる標準的な仕組みが必要となります。2011年11月には、米国のICS(Incident Command System)などをモデルに国際標準化機構が危機対応システムのISO22320を発行し、日本でも2013年10月に日本工業規格化(JISQ22320)されています。また、2013年10月から内閣府においてICSなどを参考にした災害対策の標準化が検討されています。
ICSは、日本では馴染まないという学識経験者の意見もありますが、本稿では消防にとって、ICSというシステムがなんら特別なものではないということを、東日本大震災での大阪市消防局と海外救助隊との連携の事例をもとに検証していきたいと思います。
なお本稿中、意見に渡る部分は筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する組織または消防庁の公式見解を表明するものではないことを、あらかじめご了承願います。
2 東日本大震災における海外救助隊に対する消防の対応
(1)緊急災害対策本部から消防庁への協力要請
東日本大震災では、海外から29の国、地域、機関から救助隊・専門家チームなどの派遣がありましたが、消防庁では、ドイツ、スイス、米国、中国、英国、ニュージーランドおよびオーストラリアの救助隊の受け入れについて緊対本部から協力要請を受けました。受け入れに当たっては、消防庁と緊対本部との間で、①来日する救助隊は自己完結型の体制であること、②日本国内での移動手段についても各国が手当すること、③救助隊を派遣する各国事情に詳しい外務省職員が同行することなどを協議しました。
また、これと同時に消防庁は岩手県災害対策本部と宮城県災害対策本部に連絡をとり、両県に対して海外からの救助隊受け入れの協力要請を行いました。
(2)被災県災害対策本部との調整
岩手県と宮城県には、緊急消防援助隊の指揮支援部隊長としてそれぞれ名古屋市消防局と札幌市消防局が派遣されており、海外救助隊の活動について両県の災害対策本部と調整が行われました。
両県災害対策本部から得られた活動場所などの情報は、消防庁から緊対本部に伝えられ、さらに外務省を通じて各国に伝えられ、その情報に基づき海外救助隊は各地に到着し、現地で活動中の地元消防本部および緊急消防援助隊の各部隊の協力を得て、活動が進められました。
3 緊急消防援助隊と海外救助隊との活動概要
海外救助隊が到着した宮城県においては登米市消防本部を中心に宮城県に派遣された緊急消防援助隊〔札幌市消防局(指揮支援部隊長)、京都市消防局(指揮支援隊)、鳥取県隊など〕が、岩手県においては大船渡地区消防組合消防本部(以下「大船渡消防本部」という)を中心に岩手県に派遣された緊急消防援助隊〔名古屋市消防局(指揮支援部隊長)、大阪市消防局(指揮支援隊)、堺市消防局、山形県隊、高知県隊など〕が活動場所の割り振り、連絡員の配置などを実施し、各国救助隊の活動を支援しました。

東日本大震災での海外救助隊の受け入れの際、緊急的に指揮支援隊のメカニズムを活用して対応しましたが、その後、今回の経験を参考にして消防庁内に海外救助隊の受け入れ担当を決めワンストップで対応できるようにしました。しかしながら被災地に負担をかけずに海外救助隊が円滑に活動できるための運用方法や消防の範囲を超える外的な環境整備、対応の標準化については、内閣府、外務省など関係省庁において現在のところ検討中であり、早期の制度策定が求められています。

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