(画像:Photo AC)


行政が公開する事業継続計画(BCP)のひな形は、建設業、製造業、小売業、福祉施設といった業種別で作られていることが多い。しかし、この分類は、事業継続に向けた方針を整理するためには、大きすぎるとの指摘をよく聞く。

例えば建設業の場合、建設業法では、建設業を28業種に分類して、それぞれに事業許可を取得する仕組みとなっている。また、日本標準産業分類では、建設業を50以上の細分類に区分している。総合建設業で有効だった事業継続に向けた方針でも、個別の業種によっては意味が乏しいことは珍しくない。

そこで、本連載では、中小企業の経営者やBCP担当者が自社のBCPを見直しする上でのヒントとしていただくために、中小企業庁「中小企業実態基本調査」の対象となっている66業種を対象として、業種固有の事情を踏まえた事業継続方針の検討過程について解説を試みる。

1つの業種でも事業の在り方はさまざまである。会社ごとにそれぞれの事情があり、事業継続に向けてどのような方針を選択すべきか経営判断は異なるが、自社のBCPを見直すにあたり、どこに着目するべきかを連載を通してお示ししたい。

今回は設備工事業を取り上げる。設備工事業は、建設業の一種で、日本標準産業分類では「電気工作物、電気通信信号施設、空気調和設備、給排水・衛生設備、昇降設備、その他機械装置などの設備を完成することを発注者に対し直接請負う事業」と定義されている。

1)業界動向から考える事業継続に向けた要点

中小企業実態基本調査(※)の結果から、現在の設備工事業は以下のように相対評価できる。

※…中小企業実態基本調査は、中小企業庁が年に一回行う中小企業を対象とした経営指標把握のための調査
http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/kihon/

事業環境評価(もうけが出ているか)       良い
短期的安全性(事業中断に耐えられるか)     高い
回復難易度(事業中断から回復しやすいか)    容易ではない


設備工事業は収益性が高い事業であり、事業中断から回復を図る価値がある。また、その結果として、現金などの保有高が多く、短期的な事業中断であれば耐えられる会社が多いように見える。しかし、設備工事業でも元請け企業と協力会社に別れており、その規模や収益構造がかなり異なるため、それぞれ異なる検討が必要である。

元請けは、引き受けた施工のすべてを自社で雇用する施工要員で行うわけではなく、大量の協力会社を傘下として抱えている。中には、施工をすべて外部に委託している企業も珍しくない。「電気工作物、電気通信信号施設、空気調和設備、給排水・衛生設備、昇降設備、その他機械装置などの設備」の不調は、この機能に依存する企業にとって深刻な問題であり、顧客としては早急な修理を求めたいものである。特に自然災害など広い範囲で設備不調が発生する事案の場合、元請けには多数の引き合いが殺到する。

元請け側では、自社と協力会社の施工部隊の状況を踏まえて、引き合いごとに優先順位をつけて対応していくことになる。局所的な不調であれば、対応は日常業務の延長上として対応できるが、自然災害などの事象の場合、急激に案件数が増えるため、通常元請け企業が押さえている施工部隊だけでは緊急時の工事件数の増加に対応できないことがある。この需要の急増への対応を元請け、協力会社のそれぞれにおいて準備しておくことが、設備工事業における事業継続の要点である。