2)BCPの見直しに向けた考え方~元請け企業の場合

(ア)事態を速やかに把握する

地震や感染症などの事象であれば事態を速やかに把握することは容易であるが、その他の要因により機能停止が大量に発生することがある。2011年に京都市で発生した「水道管からの漏水により隣接するガス管が破損し、ガス供給が停止した事案」などはその一例である(※)。この事案では、ガスが漏えいし、消防法23条の2に基づき火災警戒区域が設定され、ガス器具の使用が制限される事態に発展した。影響はガスで1万3千世帯、水道が1500世帯に及んだ。

※…事故に関する詳細は京都市水道局の公表資料に基づく。
http://www.city.kyoto.lg.jp/suido/page/0000103480.html

経営者がこのような事態の発生をいち早く認識しないと、回復に向けた活動にも影響が出る可能性がある。例えば、ある元請け企業では、発注元と連携して、発注元が管理するコールセンターへの入電数が一時間当たりで設定された目安を超えた場合は、自動的に警戒態勢に移行し、発注元と元請けの両者で状況を確認するとともに、経営層にも連絡が届く仕組みになっている。

設備工事業の場合、電力会社と施工会社、ガス会社と施工会社のように、特定の発注元と元請けが普段から緊密に連携していることが多い。このような業態であれば、緊急事態の把握でも緊密に連携する仕組みを検討しやすい。

(イ)施工部隊を急激に増強する

通常をはるかに上回る需要が発生する事態に対応するためには、通常の供給体制に加えて、通常のオペレーションには入っていない方策も講じることで、供給を急増させる方がよりよい。この方策を実現可能なように準備するのは経営層の責任範囲である。

元請けの事業範囲が全国であれば、事案の影響が発生していないエリアから応援部隊を送りこむ選択肢がとりうる。また、事業範囲が特定エリアに限られているのであれば、事業エリアが重複しない同業他社に応援を要請することが考えられる。事業内容によっては、事業エリアが重複する同業他社間の支援もありうるが、極力自社が主導的な立場を取れる仕組みを用意する。

例えば、東日本大震災において、仙台市ガス局は、一般社団法人日本ガス協会を通じて全国の都市ガス事業者49社から延べ7万2千人の応援要員の派遣を受け入れている(※)。このような仕組みが業界団体で整備されているのであれば、積極的な活用方策をBCPに組み込んでおくことが事業継続上不可欠である。連絡手段、要請の書式、費用負担などは事前に協定などの形で合意し、自社のBCPにも組み込まなければ、迅速な対応を妨げることになる。

※…事故に関する詳細は仙台市ガス局の公表資料に基づく
http://www.gas.city.sendai.jp/top/info/2013/05/001936.php

(ウ)受援計画を策定する

他エリアからの応援部隊の受け入れを事業継続に向けた方針として採用するのであれば、この応援部隊の生活を維持し、有効に活躍できる場面を設定するのは、応援を受ける事業者の責任である。

経験則では、応援部隊を100とした場合、応援部隊の生活を維持し、その他の調整を行うために15~20程度の人員を必要とする。応援部隊も来援直後は精神力で乗り切れるが、その後は極力温食を配食し、安心して排泄と睡眠ができる環境を整えなければ、事故発生の原因となる。大規模な支援部隊受け入れの経験がない会社の計画は、この点で検討の余地が大きいことがある。

次に、有効に活躍できる場面の設定であるが、これは受け入れから始まる。支援部隊第一陣の受け入れは、経営陣が自ら現場に立つべきである。この姿勢が自社と支援部隊のモチベーション向上につながる。来援した要員に実力を十分に発揮してもらうためには、欠かせないプロセスと考える。

遠隔地からの応援部隊の活躍を妨げる要因の一つとして、地名が読めないということがある。個人的な経験だが、関東出身の筆者は、急な応援依頼で愛知県に出張した際、「知立」(ちりゅう)、「弥富」(やとみ)、「海部郡」(あまぐん)などの自治体名や「にーよんぱー」(国道248号線)などの通称が分からず、困ったことがある。業務を行う現場は極力固定し、伝票には正式名を記入し、地名にはふりがなをふり、応援部隊が現場に入る一日目は自社の社員が同行するなどの対応は検討しておく方がよい。

最後に、応援に来ていただいた要員は、一人残らず氏名を確実に確認し、後日感謝の意を伝えることができる状態になれば、感謝状を贈呈するなどの対応を用意する。後日感謝状を出したいが、氏名が分からなくなったため、支援を受けた事業者に照会するなどのドタバタは避けたいものである。