第4回:PDCAを適用できるシーンは枚挙にイトマがありません
日常業務の中でPDCAを活用してみる
BCP策定/気候リスク管理アドバイザー、 文筆家
昆 正和
昆 正和
企業のBCP策定/気候リスク対応と対策に関するアドバイス、講演・執筆活動に従事。日本リスクコミュニケーション協会理事。著書に『今のままでは命と会社を守れない! あなたが作る等身大のBCP 』(日刊工業新聞社)、『リーダーのためのレジリエンス11の鉄則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『山のリスクセンスを磨く本 遭難の最大の原因はアナタ自身 (ヤマケイ新書)』(山と渓谷社)など全14冊。趣味は登山と読書。・[筆者のnote] https://note.com/b76rmxiicg/・[連絡先] https://ssl.form-mailer.jp/fms/a74afc5f726983 (フォームメーラー)
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■災害危機管理におけるPDCAの目的とは
前回は、「PDCAは何が何でもグルグル回さなければならないから重荷だ」という脅迫観念にとらわれている方に、実はそうでもないことを事例でご紹介しました。PDCAにも目標(=ゴール)があるわけで、その意味ではむやみに回し続ける必然性はないのです。
そしてP→D→C→Aの各ステップをなぞるにしても、ひたすら一方通行かつ一過性的に進めることだけがPDCAではなく、あらかじめ複数のオプションプランが手元にあるなら、プランAがダメならプランBをやってみる、D→Cの部分を反復してみるのもありです、といったことをお話ししました。
さて今回は、PDCAの2つの誤解のうちの2つ目を解く鍵、すなわち「実際に災害が起こった時の対応行動のみを"Do"とみなすのはよろしくない。事業継続管理における"Do"は、平時の中にこそ各種さまざま潜在している」についてです。
そもそも実際に災害が起こるまで「Do」が試せないなんて、考えてみればナンセンスな話。災害危機管理の姿勢としては本末転倒ではないでしょうか。危機管理の本当の目的は、「万一災害が起こっても素早く適切に対処できるように、平時から必要な備えと対応姿勢をスタンバイさせておく」ことにあります。スタンバイの維持を阻害する問題・課題はいろいろあると思いますが、その解決こそが事業継続管理における本当のPDCAの目的なのです。
■継続的な改善を目指すPDCA
日常の事業継続管理において、PDCAを適用できるシーンは多々あります。そのことを、いくつかの事例で見ていこうと思うのですが、いきなり事業継続管理上の諸問題をテーマとしたのではピンとこないかもしれません。
そこで、まずは前回と同じように、日常業務に見られるPDCAの活用例に触れておくことにしましょう。これらの一般的な例を頭の隅に置いておけば、事業継続管理におけるPDCAの生かし方(=さまざまな「Do」があること)もイメージしやすいだろうからです。
PDCAには、大きく分けて2つの目的もしくはパターンがあります。一つは文字通り一般のビジネス書で慣れ親しんでいる「継続的な改善」を目指すパターン。もう一つは最終ゴールを決めて問題を解決し、「スタンダードとして定着させる」ことを目指すパターンです。前者については、たとえば次のような用途が考えられます。
①プロジェクト管理
これはPDCAの最も典型的な活用例と言えるでしょう。プロジェクトは計画通りにスイスイ進むことは稀で、計画に遅れが出たり、アウトプットに欠陥や不備が見つかったり、客先からクレームが来たりするものです。PDCAはこうした状況に対し、臨機応変に軌道修正ややり直しをするために生かされます。
②製品の品質や機能の変更
主に研究開発や品質管理部門で実施されているPDCAです。たとえ画期的な製品を開発し、世に受け入れられたとしても、そのうち同業他社の攻勢や顧客ニーズの変化などの影響に直面することになりますから、品質や性能、機能について文字通り継続的に改善していかなければなりません。
③個人やチームのルーチンワーク管理
こちらは主に業績向上のためのマーケティングの手法やヒューマンファクターなどに焦点を当てます。生産性や業績、業務効率の向上、失敗やミスの低減を目指すもので、軌道修正や改善をはかりながら進める点で、上記の①や②と同じアプローチを採ります。
■問題の解決とスタンダード化を目指すPDCA
ある問題を解決する場合、最終的にベストな解決策を一つ選ぶことになるわけですが、そこに至る過程では、複数の解決オプションを試すことも少なくありません。PDCAは、もともと試行錯誤を想定したステップでもあるので、問題の解決やスタンダードとして定着させるための手段として、最終ゴールに向かってリニアな発想で取り組むために用いられます。
①取引先の開拓
新素材の調達が必要になった時、どのメーカーと手を結ぶのがベストなのか。品質、仕様、価格などいろいろな面を考慮して、複数の候補先の中から最適な1社を選ぶことになります。PDCAは、こうした複数の候補先の選定や最終発注先の決定のために生かされます。
②新製品の開発
前項(継続的な改善を目指すPDCA)の①や②と似ていますが、こちらはゼロから新製品を開発する場合を想定しています。部分部分についてテストを行ったり、試作段階でのさまざまな問題や課題を抽出する際にPDCAが使われます。
③人材開発
企業にとって「人」は最も貴重な経営資源です。「人」を生かすにはどうするか、あるいは唯一無二の人材が業務に従事できなくなったら、代わりにだれに担当させるか。知識や経験、技能の幅と質を高めるために、いろいろな面でPDCAは活用できるでしょう。
ここで述べたPDCAの2つのパターン、そしてそれぞれについて引用した①~③の事例をもう一度反すうしてみてください。事業継続管理のプロセスにも多かれ少なかれ似たような問題や課題が潜んでいることに気づかれたのではないでしょうか。とくにPDCAの"Do"が、災害の発生とは関係なく、日常の管理テーマとして、継続的な改善やスタンダードとして定着させるために生かされることが、なんとなく実感できたのではないでしょうか。
(了)
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