災害時に機能しないと協定の意味はありません(出典:写真AC)

■新聞の見出しは立派だった

中堅ビルマネジメントのA社は、同業組合の理事も務めています。ある時、地元新聞にA社の記事が取り上げられました。A社を代表とするビル管理組合が県と災害協定を締結したとの記事です。協定書を交わすA社社長と県の担当者の写真も鮮明に写っています。

協定の内容は次のようなものでした。もし大地震や台風の被害によって、多くの住民が避難所生活を余儀なくされた場合、県はただちにこの組合に連絡し、さまざまな調査や業務を委託するというものです。例えば避難所や緊急物資倉庫、仮設トイレその他の場所について環境衛生調査を行う、清掃や消毒作業を行う、そしてこれらの調査や各種作業の進み具合、新たに発生した問題などを県にフィードバックするといったことです。

新聞を手にしたA社社長は笑みを浮かべながら、総務部長に話しかけました。「なかなかよく写っておるね。これで当社と組合の知名度もアップするだろう。実際に災害が起こったときは、お世話になっている地元への還元にもなる」。とここで、社長は思い出したように総務部長に質問しました。

「ところで、もし明日にでも大地震が起こったら、すぐに動けるだろうか?」。「もちろんです!社長。当社ではBCPを策定していますから何の心配もありません」。

しかし社長はさらに突っ込みます。

「BCPがあることは分かっている。わしが聞いているのは、県から協定の活動要請が来たとき、すぐに動けるように具体的な方針や手順は決まっているのか、そのことがBCPに記載されていて主要なメンバー全員が周知しているのか、という意味なんだが…」。

■協定の目的・要件・問題点を洗い出す

これを聞いた総務部長はちょっと言葉に詰まってしまいました。確かに、言われてみればBCPはあるものの、災害協定の要請を念頭においた活動方針や手順などについては、これまで具体的に議論したこともないし、ましてやBCPに書いてあるはずもないのです。

これはいかんと一念発起した彼は、さっそく危機対策本部メンバーを集めてこの問題を解決しようと思い立ちました。しかし、漠然と集まってもらっても、とりあえず文言を決めただけのBCPで終わってしまっては意味がありません。社長も指摘するように、「いつ県から協定の活動要請が来てもすぐに動けるようにする」ことが最終目的でなければなりません。

そこで総務部長は、BCPに文言を追加するだけでなく、いつでも協定の要請に応えられるようスタンバイするための体制作りを、PDCAの枠組みを利用して進めることにしました。Planの組み立てに先立ってまず必要なことは、問題点の整理、つまり災害協定に応えるための必要事項を洗い出し、それらを実現する上でネックとなる問題や課題を特定することです。

この作業を行った結果、次のようにまとめることができました。

1.協定活動の目的・方針
2.連絡体制
3.いつでも要請に応えられることの検証