身近な事例で、PDCAを考えてみましょう(画像:Photo AC)

災害・危機管理といったお堅い話は抜きにして…

PDCAについていろいろ調べて分かったこと。

それは、PDCAとはハムスターの回し車のようにいつまでも回し続けるものではなく、その先には最終ゴールがあること、つまり問題を解決したり、正式な手順や手続きとして標準化することを念頭に置いているということ。

そして中間ステップである「Do」や「Check」は最終ゴールに至るための試行プロセスに過ぎず、Checkの結果に不満ならばまたDoに戻って(あるいはさらにPlanにさかのぼって)やり直しても問題はない、ということです。

また、「Do」についても意味のくみ取り方に注意が必要であることを述べました。一般のビジネスの現場で実践するような意味でBCPの「Do」をイメージしようとすると、実際に災害が起こった時の対応行動のことであると飛躍的に解釈してしまう危険があります。これでは災害が起こらない限り「Do」が実行できないことになってしまいますから、「Do」の意味を相対的に捉えなくてはなりません。

と、このように書いてはみたものの、読者の中には「ノウハウ本に書いてあるPDCAの話とは違うぞ。あまりテキトーなこと言ってもらっては困るんだけどなあ」と思っている方も少なくないでしょう。そこで以下では、ひとまず災害・危機管理といったお堅い話は抜きにして、ごく一般的な業務のPDCA事例を示して、筆者の指摘したことが必ずしもテキトーではないことを検証してみようと思います。

最初に取り上げるのは、PDCAの2つの誤解のうちの一つ目を解くこと。すなわち「PDCAは最終ゴールに向かって行きつ戻りつしながら試行錯誤的にやってみるものであり、一過性かつ一方通行で回すことだけを意味するものではない」についてです。次のケースを考えてみましょう。

売れっ子ブロガー効果で売上はアップするか?

ある日、営業企画課のA君は、X商品の売上倍増計画の立案を命じられました。Xは会社としての期待度の高い商品ですが、なぜか販売開始から1か月、ずっと売れ行きはかんばしくありません。

A君はこの問題をPDCAで解決しようと思い立ちました。Xが売れないのは商品知名度が低いからではないか、との仮説を立て、次の3つの解決案を書き出してみたのです。

①売れっ子ブロガー氏にX商品の紹介を依頼する

②X商品のリスティング広告(検索エンジンと連動して表示される広告)を出す

③イベント会場でX商品のデモンストレーションを行う


A君が真っ先に選んだのは①の方法でした。「この有名ブロガー氏のファンは平均8000ユーザーいるそうだから、X商品は8000人の潜在顧客を持つことになる。ブロガー氏への微々たる謝礼で大きな売上が期待できるなんて、我ながら卓抜な戦略だよなあ。うふ、うふ、うははは」。A君の脳裏にマーケティングの成果を上げて社長から表彰される自身の姿がよぎります。

ところが後日、これを実際に試したところ、意外な結果に終わったのです。ブロガー氏が自身のブログで念入りにX商品を紹介してくれたにもかかわらず、その翌日以降のネット通販の売上記録にはほとんど何の変化もなく、A君はガックリと肩を落としました。どうやら売れっ子ブロガー氏がX商品をベタ褒め紹介してくれたことと、氏のファンがX商品に対するニーズを持っているかどうかとは、あまり関係ないみたい…とA君は悟ったのでした。

再び「Do」と「Check」の出番なのだ

ここで少し整理しておきましょう。A君はPDCAの流れとして、Plan(3案の立案)→Do(3案のうち①を実行)→Check(効果の確認)までを一通り実行してみたわけですが、このままActへ突き進むとオカシなことになります。

Actは一般的に日本語では「改善」と訳されていますが、A君としては「改善って、何を改善するというのだ? 改善どころか大本の計画からしてうまくいってないというのに…」と、かなり困惑ぎみです。

しかし、これでミッションを放り出すわけにもいきません。「まだ2つオプションが残っているではないか。諦めるのはまだ早い」と気を取り直したのです。そしてさっそく②の「X商品のリスティング広告を出す」に立ち戻って「Do」と「Check」を試してみました。

しかし、お気の毒なことに結果は①と同じでした。A君はふたたびガクンガクンと肩を落としました。翌日、見るに見かねたA君の上司は声をかけました。「A君ね、ボク思うんだけどね、投網で一度にたくさんの顧客をつかまえるみたいなこと、X商品には向かないんじゃないかな。ネットの利用も良し悪しだよね。洒落じゃないよ。アハハハ」。

上司の鋭い指摘に触発されたA君は思いました。「最後のネットを使わないオプション、③ならうまくいくかもしれない。これでダメなら今回のPlanをご破算にして、一からやり直すしかないな」。

彼は再びふるい立ちました。なかなか良いことを指摘してくれる上司となかなか懲りないA君ではありますが、そもそも、彼らの姿勢こそが、PDCAそのものなのであります(理由はこのあとで)。

PDCAの実効性を高める鍵は「Do」と「Check」の反復にある

A君はさっそく③を実行するための準備に取り掛かりました。と言っても、あまり大掛かりなイベント会場では時間とコストがかかりすぎますから、近郊にあるデパートのフロアの一部を借りて、こじんまりとやってみたのです。さて結果は…。

「信じられん」。

A君とA君の上司は同時に同じセリフを口にしました。会場はいつの間にか黒山の人だかりです。X商品の使い方や効果をライブで紹介したことにより、多くの人が目からうろこを落としてくれました。

個人で注文する人はもとより、何件か大口の商談も成立して、予想外の反響となったのでした。結論から言えば、X商品は不特定多数の人に広く浅くイメージで紹介するよりも、実際に会場に足を運んでくれた人々に現物をアピールすることで、初めて商品のすばらしさが理解されたというわけです。

以後、X商品の効果的な販売戦略は、「イベント会場でのデモンストレーション方式」が当面のスタンダードとして正式に採用されることになったのでした。めでたしめでたし。

上記のように、PDCAは①案の「Do」→「Check」を経てそのまま「Act」に進むわけではなく、①案が失敗した場合に備えてあらかじめPlanで用意した他のオプション(②案や③案)に戻って、再び「Do」→「Check」をやり直してみるというのが、柔軟なPDCAの運用方法でしょう。そして最終的に③案で成功を収めたので、「Act」の判定は「③案を正式採用する」となり、ここでいったんPDCAは完結したわけです。

では、もし「Plan」で一つの計画(例えば①案のみ)しか立案しなかった場合はどうなるのでしょうか。この場合は「Do」→「Check」で失敗が明らかとなりますから、「Act」では次の2つのアプローチのどちらかが選ばれるでしょう。

一つは「①案を破棄する」という判定を行い、根本からアイデアを練り直すべく「Plan」のステップに入る。もう一つは「①案を改善する」という判定です。この場合は①案の失敗の原因をさまざまな方向から解析し、次の「Plan」のステップで①案に調整や変更を加えた計画を実行に移すというやり方です。

次回は、PDCAの2つの誤解のうちの2つ目を解く鍵、すなわち「実際に災害が起こった時の対応行動のみを"Do"とみなすのはよろしくない。事業継続管理における"Do"は、平時の中にこそ各種さまざま潜在している」についてです。

(続く)