2014/03/25
誌面情報 vol42
創造型需要とプラチナ産業創出
世界の若年失業率は、例えばギリシャが60%、スペインとイタリアが50%、フランスが40%という状況で、西欧の大国で雇用がきちんとしているのはドイツだけです。やはり、国内の需要を中心にしっかりと雇用創出をしないといけません。そのためには、国内で、飽和型需要ではなく、QOLを高めていく欲求に基づいた創造型需要やそれに対応するための産業を創っていくべきだと考えています。例えば、健康産業とか再生可能エネルギー産業、スマートシティなどです。私はこれらを“プラチナ産業”と呼んでいます。
私も宮城県のお手伝いをさせていただいておりますが、ただ元に戻す=復旧するだけではなくて、新しいものを創ろうと考えています。125の自治体が集まった「プラチナ構想ネットワーク」はそのために組織したものです。良いまちづくりをしたい。それには、中央や霞が関だけでは無理でしょう。地域には多様性がある。市民が中心になって、どういうものを作りたいという意志とアイデアがあり、そこに産官学と政治がサポートして、新しいものを創っていく。創造型需要を掘り起こすためには、地域起点のイノベーションが不可欠なのです。中央集権の日本と地方分権の流れの中で、道州制というカタチもあると思いますが、地域が実質的に強くなっていくことをやっていかなければ、明るさは見えてこないと思います。そのために地域発でアクションを起こすことに取り組んでおります。
それでは、創造型需要の具体的内容はどのようなものなのか。地域固有の問題もありますが、ここでは共通する面、プラチナ社会の必要条件という視点から見ていきたいと思います。
QOLを高める省エネ住宅
エネルギーで一番大事なのは、エネルギー効率の向上です。自動車は走るものであって、ガソリンを燃やすためのものではありません。住宅も快適に住まいたいのであって、無駄に暖房したいわけではないでしょう。快適かつ省エネの住まいが本来意図するところです。
エネルギーの18%は家庭で消費されています。これが上手くするとゼロになります。私が11年前につくった家は、高気密・高断熱の省エネ住宅です。二重ガラスを入れて、断熱をしっかりとやりました。世界で一番エネルギーを消費しているのは、暖房と自動車です。暖房というのは、寒いから熱を入れているとお思いでしょう。部屋の中が暖たかいのに、どうしてどんどん熱を入れても我々はゆだらないのでしょう。それは、熱が外に逃げていく分だけ熱を入れているからです。暖房は、部屋の中を暖めていると思っているのに、実は家の外を暖めているのです。焚き火と同じですよ。断熱を良くすると、暖房費は3分の1に抑えられます。
私の家は、断熱と気密化などによって、消費エネルギーが58%減って、太陽光発電で電気を23%自給しているので、外部から供給するエネルギーが以前の19%にまで低減しています。ハウスメーカーが現在販売している住宅は、消費エネルギーがゼロになるのが当たり前です。太陽電池で発電するエネルギーと消費エネルギーがトントンで、中には発電量が消費量を上回る住宅もどんどん売り出されています。
エネルギー政策は大きな転換期に
太陽電池は、どんどん価格が下がっています。20年の期間で見ると、太陽電池は決して高くありません。太陽電池は50年もちます。奈良県の壷阪寺というところに31年前に設置された国内初の太陽電池がありますが、いまもピカピカです。何のメンテナンスも無しに、そうした状況なのです。太陽電池、風力、バイオマス、地熱、小水力が各地で導入され、電力需給の過不足の情報をインターネットで制御してやりくりする時代になるのは必定です。この分野で早く世界をリードしたい。
「2050年にエネルギーの自給国家を目指そう」が私の持論です。なぜ、できるのか。例えば、車の数は一定なのに、毎年、年前の燃費の悪い古い車が燃12費の良い新しい車に更新されていくので、ガソリンの消費量は減っていきます。つまり、自動車や住宅などの人工物が量的に飽和する一方、エネルギー効率の上昇により、全体のエネルギー消費が減るのです。ここが極めて重要な時代感覚です。
私の試算によると、相当控えめにみても、日本のエネルギー消費量は55%ぐらい縮まる。現行ベースで進んだとしても、再生可能エネルギーは30%ぐらいを占めることは可能なことから、2050年に7割ぐらいの自給率というのは極めて合理的な目標であると私は確信しています。人類史の転換期にあって、日本のエネルギー政策も戦略の転換をしなければいけないタイミングに来ています。
鉱物資源はリサイクルで
鉱物資源の自給は“リサイクル”です。リサイクルは、新規に発掘してくるよりエネルギー消費量がはるかに少ないのです。例えばアルミニウは空気中においておくと、酸化してしまいます。ボーキサイトが原材料ですが、これは酸化アルミニウムです。ここから酸素を切り離すのに電気分解するのですが、リサイクルのスクラップは酸素の付いてないアルミニウムで、これは溶かすともう1回使えます。電気分解のエネルギー消費量は、溶かす場合の83倍です。現実の工場も30倍も大きい。理論的にはリサイクルにより、圧倒的にエネルギー消費が減るわけです。
レアメタルは、自動車も家電もリサイクルされていますが、もっと小さいものもちゃんとやりましょうよ。南アフリカの金鉱山には、1トンの鉱石の中にたった5グラムしか、金が含まれていません。携帯電話を1トン集めると250~300グラム入っていると言われています。南アフリカの鉱山の50倍です。鉱山から掘るよりもリサイクルの方が相当効率的であることが理解できるかと思います。メタルはリサイクルが主流になってくるのが必定です。そうしますと、鉱物資源も70%がリサイクルになります。 後は、食料と木材です。木材は25%しか自給しておらず、75%は輸入です。
日本は森林破壊の元凶と言われていますが、私もそう思います。日本もきちんと木材を自給する国になるべきです。先端的な林業をやれば、それは実現できます。オーストリアはアルプスという峻険な山々を有していますが、林業は同国で最大の雇用創出産業なのです。ちゃんと取り組めば、日本もそうしたことが実現できます。木材を自給し、山も再生していくという循環を創るべきなのです。
誌面情報 vol42の他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/03/05
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/03/04
-
-
-
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
-
能登半島地震の対応を振り返る~機能したことは何か、課題はどこにあったのか?~
地震で崩落した山の斜面(2024年1月 穴水町)能登半島地震の発生から1年、被災した自治体では、一連の災害対応の検証作業が始まっている。石川県で災害対応の中核を担った飯田重則危機管理監に、改めて発災当初の判断や組織運営の実態を振り返ってもらった。
2025/02/20
-
-
2度の大震災を乗り越えて生まれた防災文化
「ダンロップ」ブランドでタイヤ製造を手がける住友ゴム工業の本社と神戸工場は、兵庫県南部地震で経験のない揺れに襲われた。勤務中だった150人の従業員は全員無事に避難できたが、神戸工場が閉鎖に追い込まれる壊滅的な被害を受けた。30年の節目にあたる今年1月23日、同社は5年ぶりに阪神・淡路大震災の関連社内イベントを開催。次世代に経験と教訓を伝えた。
2025/02/19
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方