【緊急提言】
跡見学園女子大学教授/内閣府高齢者等の避難に関するサブワーキング座長 鍵屋一

9月4日正午現在、観測史上最大級の台風10号が九州・沖縄地方に接近している。なんとしてでも一人残らず無事に避難して命を守っていただきたい。だが、そのために新型コロナウィルスが障害になるかもしれない。今はコロナを忘れるときだ。

避難をためらう理由

2018年7月の西日本豪雨災害では304名、昨年の東日本台風では107名、今年の九州を中心とする7月豪雨災害では86名(9月3日日現在、消防庁調べ。いずれも行方不明、関連死を含む)と、高齢者を中心に逃げ遅れによる死者が数多く発生している。

水害は、早く逃げることで確実に助かる。逃げ遅れが原因とすれば、とても残念だ。では、人が避難をためらう理由は何であろうか。調査研究企業のサーベイリサーチが今年6月、823人に聞いた結果は下のグラフのとおりであった。

 

新型コロナウィルス関連の理由がこれほど上位を占めているのは驚きだ。自宅が安全な人を除けば1位、2位、4位、7位がこれにあたる。

・人が集まると新型コロナウィルス感染症が広がる恐れがあるから
・避難所では安全な空間の確保などの感染症対策が十分にできないから
・共有部分の衛生管理が心配だから
・マスク・消毒用品などの防疫用品の手配が十分にできないから

実際には、多くの自治体は新型コロナウィルス対策臨時交付金を活用して、避難所にパーテーション、段ボールベッド、マスク・消毒用品を大量に購入している。

正常性バイアス

それでは、これらの準備をすれば、住民は安心して避難してくれるだろうか。答えは否だ。これまでの多くの研究では、避難しない主な理由は「正常性バイアス」と言われる人の心理状態だからだ。正常性バイアスは危険が近づいても「自分だけは大丈夫」だと根拠なく思い込む心理だ。

これに加えて、毎日、メディアで新型コロナウィルスの脅威が大量に伝えられると、情報過多となり、必要以上に不安や心配な気持ちを引き起こす可能性が高い。

コロナを忘れよ

まずは、ハザードマップを確認してほしい。家が大丈夫な人はもちろん家にとどまってよい。都市部のマンション高層階などもそうだ。ただ、停電と断水の可能性はあるのでトイレ、水、食料、灯りの確保などは必要だ。

家の浸水リスクが高ければ早めに避難することだ。台風の緊急避難は長くならないので、車避難もいいだろう。ちょっと遠くのホテルや旅館に行くのもよい。この際、マンション住まいの子どもや知人を頼ってもよい。

早めに避難する方が多くなればなるほど、指定避難所となる学校への避難者は少なくなり、結果としてスペースの確保、共有空間の衛生向上、物資の確保などコロナ対策がしやすくなる。

コロナを忘れた早めの避難こそが、みんなの命を守る。