2020/05/14
2020年5月号 パンデミックBCP
今後の日本の危機管理への提言
中澤 最後に、今後の日本が考えていくこと、各企業が考えていくこと、各現場が考えていくことを教えていただきたい。
熊丸 平時からの備えと準備、教育と訓練。それをしっかりとやっていかないと、いつまでたっても同じことの繰り返し。国土強靭化予算を見ても、3兆5000
億〜4兆円ある中で、人材教育への予算措置はわずか1億5000万円ほど。教育や訓練をあまりにも疎かにしすぎる。政策にもっと盛り込んでいってもらいたい。
濱田 ナレッジマネジメントへの取り組みだ。知見や知識が人に付いていき、ほとんど残っていない。
今回の新型コロナも終わったらまた忘れる。地下鉄サリンも、新型インフルも、3.11も福島原発もほとんど忘れられている。そこを何とかしたい。
渡辺 可視化できていないサプライチェーンを切って再整理し始めることだ。マーケットも変わり、需要も変わり、消費行動も変わってくる。直線的に元に戻すことは現実的ではない。また、海外の拠点については無理に日本回帰することなく、現地市場での供給責任を果たすべきだが、マスクなどの安全保障上、重要な製品は国産にし、さらに増産して輸出すればいい。そのためには、自立するまで補助をするか、国内分については全て補助をし、輸出分は自由に任せる。日本製はこれだからいい、この金額で売れるという工夫を経営者が創造するようなことを、これを機に実施する。危機管理は先手を打てる人がいないといけない。ファンダメンタルズが著しく変わりつつあるので、その潮流を読んで先手を打
つことだ。
秋冨 いわゆる4C(コマンド・コントロール・コミュニケーション・コーディネーション)を意識した体制づくりを目指すこと。調整する機能さえあれば、ある程度マネジメントができ、経験が残るようになっていくと思う。アメリカのNIMS(国家インシデント・マネジメント・システム)のように、書式や報告のフォームを統一化し、ベースを作ることで可能になる。新たな事態には、クライシスマネジメントで危機的対応がすぐできる体制の二段構えにする。小さな花火大会でも大規模災害であっても、普段から活用できるものを作るべきだ。そして、医療資源や食料を含め、国の政策として確保していくようにしなければならない。いざとなったら誰も助けてはくれない。それだけは避けなければならない
し、逆に、日本が助けてあげられれば、国際的地位も上がるだろう。
蛭間 「アフター・コロナ」を経済の側面から考えると、サプライチェーン再編に関する各国のインテリジェンスが問われるゲームは避けられないアジェンダになるだろう。「何を、どこで、生産するのか?」「それはなぜか?」の問いに対する回答は、極めて難しい。感染症のみならず気候変動、サイバー含めてオール・ハザード時代の国際競争力は、まさに危機管理や安全保障とセットと考える。この両側面でのアプローチは、日本は相当に弱い。ESG投資などの良き地球市民を体現するというよりは、イノベーション・創造的に破壊する/新陳代謝を促していくようなリスクマネーの供給も肝になるだろう。その際のキーワードはトヨタをはじめとする自動車産業が支えてきた雇用や外貨獲得を誰が担うのか、企業経営を安全保障の観点からどのように国として規制するのか。また、サプライチェーンの「ローカライズ」という点では、やはり地域の公衆衛生と防災をセットで考えなければならない。気候変動リスクも相まって、世界中の大都市が解体に向かうかもしれない。地域のサステナビリティやレジリエンスを頑張っている首長をサポートできるような仕組みを、政策パッケージとして準備し、事前投資を促す準備も始める必要がある。繰り返しになるが、ここまで災害が多発する時代にあって、公助依存型の防災や危機対応では、もう限界だ。緊急の事態に、国の給付金、補助金緊急融資を待つのではなく、自助や共助の事前投資を促すための市場活用の仕組みを意識して作っていく必要がある。
河本 今回のように国全体が危機に直面し国民が不安を抱える中で、国民の信頼の確保と政策の実効性を担保するためには、政府の国民への情報提供の在り方やトップリーダーのメッセージの出し方、そして政策決定の透明性の確保が極めて重要であることが痛感された。今後は、リスク(クライシス)コミュニケーションの機能を、政府の危機管理システムの中に組み込むことが必要だろう。
中澤 今日は本当にお忙しい中をありがとうござい
ました。
(続く)
本記事は、BCPリーダーズ5月号に掲載した内容を連載で紹介しました。
https://bcp.official.ec/items/28726465
パネリスト
術科学大学助教授、2010 年より現職。内閣官房、内閣府、経済産業省、国土交通省他の専門委員会委員、ISO/TC292(セキュリティ&レジリエンス)エキスパートなどを務める
軍が展開した「トモダチ作戦」で後方支援業務を担当。原子力総合防災訓練外部評価員、国際医療福祉大学大学院非常勤講師、(一社)ふくしま総合災害対応訓練機構プログラム運営開発委員長等の役職を歴任。著作に「311以後の日本の危機管理を問う」、オクラホマ州立大学国際消防訓練協会出版部発行「消防業務エッセンシャルズ第6改訂版」、「危険物・テロ災害初動対応ガイドブック」
に備えよ!』(イカロス出版)
2020年5月号 パンデミックBCPの他の記事
- コロナ危機への対応を通じて今、見直すべきことは何か(最終回)
- コロナ危機への対応を通じて今、見直すべきことは何か(その2)
- コロナ危機への対応を通じて今、見直すべきことは何か(その1)
- 人類が初めて経験する「現代的パンデミック」コロナ後の世界 どう生きるか
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方