オール・ハザード・アプローチの必要性

中澤 蛭間さん、経済・医療の問題を含めた危機管理的な側面で考えている課題は。

蛭間 金融機関の側として話すと、国としてでき得ることはやりきっている状況ではないか。平時から、財源の問題はさまざまに指摘されている。国の経済支援策108兆円という話が出たが、緊急事態において、投じられた社会的な効果はどれだけあるのかも検証する必要があろう。一方で、そのような金額が事前に使えたら、どれだけ今回の人的被害が削減できたかを私は考えてしまう。医療や介護機関、関連する資機材など、相当に準備ができたはずだ。
一般的なシステム特性として、ある閾値を超えると、医療崩壊も経済崩壊が発生する。その閾値の水準は、自然災害であれ、感染症であれ、民主主義が決めるのだが、このような社会の脆弱性を事前に評価できていたのか、という点も気になる。専門家は知っていたのであれば、なぜそれは国民に周知され、国の施策に反映されていないのか、なども。東日本大震災は何だったのだろうかとも思う。今後、さまざまなハザードに対して致命傷にあわない程度の社会的な投資がますます必要になると思う。一方で、国内だけを見ていると足下をすくわれるのがグローバルという厄介なコミュニティだ。先進各国ではさまざまな分野でイニシアティブをとろうと、すでに「アフター・コロナ」ゲームが始まっている。

蛭間氏(Web会議システムで参加)

中澤 危機管理においては、有事の際の行動手順を、フレームワークとして平時から考え、 備えておく必要がある。熊丸さんの考えは。

熊丸 オール・ハザード対応の観点から見ると今回の新型コロナウイルス感染症は明らかにCBRNE災害の“B”災害と定義することができる。アメリカでCBRNE災害が起きた時の指標のフレームワークは、4段階の問題解決プロセスを用いて一枚のパイ「A PIE」という形で覚えさせている。Aは分析、Pはプランニング、Iは実行、Eは評価。全米消防協会の基準NFPA472には、CBRNE災害では必ずICS※(Incident Command System:アメリカで標準化された災害対応の仕組み)を使うことを明記している。当然Iの実行段階においては、まずインシデント・マネジメント・システムを発動し、関係各機関と情報を共有し必要な援助を要請する仕組みになっている。また、CBRNE災害には指標があり、特にB災害には共通した指標、いわゆる兆候がある。例えば、今回の被害者分布は、世界中で非常に広範囲に広がっている。症状が非常にあいまいであり観測しにくい。そして、異常な数の感染者がいる。これらはB災害の指標だ。こうした指標は遅くとも1月中頃には発現していた。CBRNE災害のアウェアネス・レベルの教育が広く浸透していれば、もっと迅速な初動対応ができたはずだ。

熊丸氏

中澤 秋冨先生、これまでの危機管理のフレームワークに関する課題をどう整理されているか。

秋冨 経済を維持しつつ、医療崩壊をさせない状態を何とか維持し、オーバーシュートが迫った時には隔離政策を実施して強く抑える。その後、また経済と医療が崩壊しないように維持するという、医療、経済、金融のバランスを総合的に考えた政策をやらないといけなかった。今回、だらだらと適当に維持し、オーバーシュートしそうだという時には、もう経済の方の対策も遅れている。したがって、非常に厳しくなるだろうというのが私個人の考えだ。

秋冨氏