(写真はイメージ)

三井E&Sホールディングス(東京都中央区)

 

造船とディーゼルエンジンを主軸にグローバル事業を展開する三井E&Sグループの海外出張者は常時300人。商談、設計、製造、現地工事、メンテナンスで世界中を飛びまわり、危険とされる国への出入りも多い。渡航の安全を守るには各国の社会情勢や治安情報の正確な把握と社員への的確な指示が不可欠だ。その危機管理ノウハウは新型肺炎感染の拡大下でも発揮されている。
(※本文の内容は3月3日取材時点の情報にもとづいています)

※この記事は「BCPリーダーズvol.1」に掲載したものです。BCPリーダーズについては下記をご覧ください。
https://www.risktaisaku.com/feature/bcp-lreaders

 

中国全土の出張を禁止したのは1月29日。このとき外務省の渡航中止勧告はまだ湖北省のみで、浙江省温州市を追加したのが2月14日だから、国のはるか先を行く判断だ。

根拠はある。「1月末に社員から浙江省舟山群島への出張希望が来たので現地の情報を調べたところ、渡し船が止まっていることがわかった。すでに武漢とその周辺は出張禁止にしていましたが、ほかの地域にもローカルな交通手段の停止がある。このことを重くみました」。人事総務部環境安全室主管の奥山元氏はそう説明する。

判断の決め手になったのは、アメリカの動きだ。時を前後して、アメリカ国務省が武漢の米総領事館の職員に退避を指示、派遣するチャーター機に民間人の搭乗も促すというニュースが流れた。直後、同省が発した中国全土への渡航禁止勧告。「ここに至り、ためらう理由はなくなった」

役員と話をして中国全土を対象とする出張禁止と出張者の退避を、2月3日には駐在員にも退避を指示。根底には、ニュース映像から感じる不気味さもあたったという。「湖北省の感染者数に対して周囲の省が少なすぎていると感じた。とても大丈夫と思えなかったうえ、中国の医療事情が悪いことも知っていました」

独自判断が常に政府の先を行く

 

同社は2018年に分社化した旧三井造船グループの持株会社。各事業会社の連携強化とグループ全体の戦略構築を担う。造船とディーゼルエンジンを主軸に世界各国で産業機械、プラント、インフラなどの事業を展開するグループは、傘下企業100社以上、従業員約1万3000人、売上高約7000億円。多様な製品の設計・製造、現地工事、メンテナンス、商談のために常時約300人が世界各地に渡航する。拠点駐在員も多い。そうした海外勤務者の安全を守るのが、奥山氏の役割だ。

中国に限れば、出張者は常時10~20人、ほかに駐在員が約10人。現地で原因不明の肺炎が流行しているのをニュースで知ったのは、昨年末だった。

「1月以降、武漢に出張者がいないことは毎日確かめていた。1月7日には、産業医の先生に頼んでいるヘルスレポートのネタとして、この原因不明の肺炎を紹介したんです。もっとも、このときにはこれほどの影響が出ると思っていませんでしたが」

事態が急変したのは1月24日だ。WHOは『新型ウイルス肺炎は現時点で緊急事態にあたらない』としていたが、一方で中国政府が武漢市から近接する3都市への交通遮断を決定。「一度入ったら出てこられない」という危険を認識するに至り、即日、社内メールで武漢と周辺地域への出張禁止を発信した。

その数日後、中国全土を対象に出張禁止と退避を指示することになるのは前述のとおり。折しも、日本政府が飛ばしたチャーター機で武漢からの邦人が帰国し始めたのと同じタイミングだ。

5月12日開催の危機管理塾(双方向ウェブセミナー)では、三井E&Sホールディングスの奥山元氏に、同社の安全管理の取り組みを発表いただきます。詳しくは下記をご覧ください。
https://www.risktaisaku.com/articles/-/29287

※5月12日の危機管理塾は終了いたしました。