2013/03/25
誌面情報 vol36
10年で、9000社増加
日本は今、新たな海外進出ブームを迎えている。世界に進出している日本の現地法人数の数は2万3858社*1に及び、年前と比較しておよそ9000社10増加している。2004年をピークに新規進出数は縮小傾向にあり、2009年にはリーマンショックなど世界的経済不況の影響で、一時的に大きく落ち込んだが、それ以降、新規進出企業数が再び増加傾向にある。最新の調査では、11年10月の時点で662件となり、昨年1年間の639件を上回る勢いだ(図表1)*2。
今後2~3年で海外進出を見込む企業は2011年度比の1.4倍*3という調査もあり、今後も海外進出展開の取り組みは拡大する見込みだ。
国内市場は“6重苦”
海外進出増加の背景にあるのが、国内経済の縮小とアジア諸国の急速な経済成長だ。国内企業は今、"6重苦”(「円高」「高い法人税」「自由貿易協定への対応の遅れ」「製造業の派遣の禁止などの労働規制」「環境規制の強化」「東日本大震災の影響による電力不足」)を背負っているといわれている。このうち、円高に対する是正は徐々に進んでいるものの、その他は改善が不透明のままで、重苦は依然、6企業の大きな負担となっている。
さらに近年は、韓国のサムソンやLGを筆頭に、品質の高い製品を製造する多国籍メーカーが隣国や新興国から台頭し、これまで日本企業の強みであった品質による差異化が難しくなってきている。
代わりに、グローバル規模で価格競争が激化。コストダウンを目的に、法人税も人件費も安い海外に製造工場を移転する動きが急速に進んでいる。
多くの企業がコストダウンを目的とした生産シフトを図る一方で、現地シェアの拡大を目的とした積極的な海外事業展開を試みる企業も増えている。経済不況に加え、少子高齢化、産業の空洞化、自然災害の不安など懸念材料が多い日本で事業を続けるのではなく、今後の将来を見据え、成長著しい新興国に直接投資をしてビジネスを日本から海外にシフトする動きが見られる。
業種、規模、地域の多様化
こうした海外進出数の増加に伴い、進出する企業の業種、企業規模、進出先の地理的範囲が多様化している。業種では、とりわけ非製造業の伸びが顕著だ。2007年には製造業の海外法人数を非製造業が上回り、それ以後、両者の差は広がっている(図表4)*4。*特に、非製造業の進出数の大半を占める卸売業が急増。これに次ぎ、サービス業、情報通信業の数も順調に増えている。
非製造業の増加の背景には、海外市場獲得の重要性が挙げられる。現地の製品需要が旺盛になり、「新興国で製造し、先進国で販売する」という従来型のビジネス展開から、経済成長の著しい新興国で勝負をする直接投資を目的とした企業増加したことの表れだ。
進出先は、先進国から新興国へのシフトが進行している。最新の調査ではアジアの現地法人の数が1万4000社を超え、体の6割以上を占めて全いる。進出国の多様化が進み、中でもASEAN諸国の増加が目立つ。
10年前まで新規進出先の半数近くは中国だったが、2011年度の調査では3割近くまでに減少。これまで長きに渡り新規進出数2位を保持していた米国は、一気に5位に順位を落とし、代わりに2位にタイ、3位インド、4位インドネシアが台頭した。結果、上位10カ国のうち、半数以上がアジア地域の国々で占める結果となっている。
企業規模でも多様化の動きが見られ、特に中堅・中小企業の海外展開の増加が顕著だ。2011年度には、政府が新成長戦略に中小企業の海外展開を重要な政策として取り入れ、積極的な海外事業支援の展開を支援し、中小企業の海外子会社の資金調達を円滑化する措置を講じている。その結果、中小企業日本政策金融公庫では、11年度の海外展開する中小企業への融資が、前年度の2.7倍になったという。さらに、円高の影響もあり、中小企業にとって海外進出しやすい環境が整い始めている。
こうした背景から、今後も海外需要拡大に対応した海外生産拡大の動きは避けられないと言えるだろう。
*1 東洋経済 海外進出企業データ 2012年度版
*2 東洋経済 海外進出企業データ 2012年度版
*3 帝国データバンク
*4 経済産業省 海外企業活動基本調査
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