逃げ地図づくりの作業(写真提供:明治大学 山本教授)

津波から高台などへ避難する経路と所要時間を一目でわかる「逃げ地図」づくりが、住民参加型の防災ワークショップとして沿岸部だけでなく山間地にも広がりはじめている。埼玉県秩父市では、逃げ地図づくりを土砂災害に応用し、その成果を住民主体の地区防災計画(※)に反映させるなど、新たな試みが進められている。

逃げ地図は東日本大震災の後、日建設計の若手社員たちによって開発されたもので、高台などの避難目標地点までの経路とその所要時間をワークショップ形式で話し合いながら地図上に色塗りをして作る。地図の作成が目的ではなく、地図づくりを通じて、さまざまな気付きが得られるというのが最大の特長だ。すでに北は岩手県から南は高知県まで全国各地で使われはじめているが、これまでは津波災害への備えとして、主に沿岸部の地域でのみ取り入れられてきた。

こうした中、住民参加型のまちづくりワークショップを展開する明治大学理工学部建築学科教授の山本俊哉氏、千葉大学大学院園芸学研究科教授の木下勇氏らが中心となり、逃げ地図を多様な災害に応用する研究を進めてきた。その一環として、埼玉県秩父市では、逃げ地図による土砂災害を想定した避難計画づくりが行われており、近く久那地区で住民が主体となって策定する地区防災計画にその活動の成果が盛り込まれる見通しになった。

自宅から避難所までの所要時間や危険箇所がわかる

逃げ地図は、2000~2500分の1程度の地図と12色以上の色鉛筆と紐(ひも)さえあれば、どこでも誰でも作成することができる。

5~7cmほどの短い切れ端の紐を、足腰の弱い高齢者が3分間で移動する歩行距離(平均129m)を図る物差しとして、この紐を地図にあて、避難目標地点を起点にした避難経路に、3分間までは緑色、3~6分間は黄緑色、6~9分間は黄色、9~12分間は橙色というように色塗りしていく。自宅から避難場所までどのくらいの時間がかかるかが一目でわかる仕組みだ。

建物の倒壊や崖崩れなどで通行不能になる恐れのある道路や橋梁などは×印をつけて、回避経路も記す。一通り塗り終わった後、避難経路に避難方向を示す矢印(→印)をつける。

陸前高田市米崎地区のワークショップで作成された津波からの逃げ地図(写真提供:明治大学 山本教授)