ISO6309:非常口のピクトグラム画像

当初、講演や交流会で「ピクトグラム」について話すと、理解してもらえない人が何人かいました。

そこで、講演をする際は会場にある「非常口」のピクトグラムを指差しして、皆さんに覚えていただいています。

このピクトグラムが生み出されたのは、1964年の東京オリンピックといわれています。当時、文化の違う外国人を受け入れるに当たり、国内の一流のデザイナーが集い、一目で分かるデザインを考え出したのです。今でもあちこちで見かけるトイレのマークはこの時、原案が考えられました。

この連載の本題である防災や危機管理におけるピクトグラムを使ったコミュニケーションですが、ピクトグラムを知る上で最も参考になる事例は、非常口のサインです。

非常口とは、火災、地震、事故などの非常事態が発生した場合に備えて設置された出口です。

村越愛策『世界のサインとマーク』(世界文化社、2002年)には、このマークが生まれた背景を知ることができる貴重な記述があります。

1972年(昭和47年)に大阪の千日デパート、翌年には熊本の大洋デパートでどちらも100人を超す犠牲者を出したビル火災の発生を契機に、消防庁では建装材の不燃化などと併せて「非常口」という大型の文字の書かれたサインを義務化しました。しかし、これは大変な不評を招きました。単に大きく書くことでは問題の解決にはなっていないという意見、漢字のみでは外国人には分からないという意見などなど。
その後、ISOでも非常口のシンボリックデザインを国際的に統一する計画があり、1987年(昭和62年)、日本の科学テストにもとづいた結果が認められ、ISO 6309(防火・安全)として国際標準となりました。しかし、EUの加盟国の中にはこの図記号を使用していない国もあります。どこにいても、災害はいつやってくるかわかりません。非常口の確認は心がけておきたいものです。
参考資料 村越愛策『世界のサインとマーク』世界文化社2002年 P47

 

国際規格、日本工業規格としての位置づけ

村越氏の記述の中で「ISO」という言葉が出てきますが、これは説明するまでもなく、国際規格のことを指しています。そこで、このピクトグラムが、ISOや日本工業規格(JIS)の中でどう規定されているかをご紹介していきます。

ISO(国際標準化機構)
ISOは、スイス・ジュネーヴに本部を置く非営利法人で、国際的な標準である国際規格を策定しています。
実はピクトグラムは、ISOによってわずか57項目しか標準化されていません。ちなみに、ISOの規格は5年ごとの見直しが定められています。

JIS(日本工業規格)
JISは、経済産業省の所管で工業製品を対象としています。しかし、ピクトグラムは工業製品のために作られたわけではないので、国土交通省の外郭団体である公益法人交通エコロジー・モビリティ財団が「標準案内用図記号」としてピクトグラムを管理しています。現在、登録されている標準案内用図記号は、「公共・一般施設」「交通施設」「商業施設」「観光・文化・スポーツ施設」「安全」「禁止」「注意」「指示」「アクセシブル」のカテゴリーがあり、合計125種あります。そのうち110種がJIS規格として制定されました。
※現在は136種です。案内用図記号(JIS Z8210、令和元年7月20日)、さらに東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて案内用図記号の見直しが進められていて、152種類まで増えるそうです。

新たに追加された記号には「無線LAN」「充電コーナー」「海外発行カード対応ATM」などがあります。時代が反映されていて面白いですね。

この他、アメリカでは、AIGA(アメリカグラフィックアート協会)がアメリカの案内用図記号(USDOT)として、これまでに合計50種類のピクトグラムを制定しています。次回から、防災や危機管理における具体的にピクトグラムの活用例を紹介していきます。

(了)