水害に対する事前準備は地震の場合と異なります。地震は、その発生時期を正確に予測することが難しい突発的災害ですが、水害の場合は、その発生の時期や被害に見舞われる範囲をある程度予測できるからです。そこで、水害に対する事前準備は、それらの予測を踏まえて進めることが重要です。

準備編その3 水害に対する事前準備①

1.水害に対する事前準備の前提

(1)水害の原因事象となる台風などの発生時期は予測できる
台風の場合、日本列島に影響を及ぼす可能性がある台風が発生すると、1週間ほど前からテレビ・新聞等で報道が始まります。その段階では、まだ日本のどの地域が大きく影響を受けるのかはっきりしませんが、台風が近づくにつれて、どの地域に上陸するか、また上陸しない場合でも影響の大きい場所はどこかなどの情報が発表されます。

台風上陸の2~3日前までには、自社の所在する地域が大きな影響を受けるかどうかが明らかになってきますので、その段階から準備行動を強化することが重要です。

例えば、災害備蓄の中身を確認して、不足する品目がある時は補充しておくとよいでしょう。当該台風で使わない場合でも、その後の災害に備えることができます。

(2)水害の被害に見舞われる範囲も想定できる
昔から「水は高きより低きに流れ」と言われていますが、これは水害の被害が発生する地域を予測できることを意味します。つまり、堤防が決壊する、あるいは高潮や内水氾濫が起こった場合、流れ出た水は、高い土地から低い土地に流れ、そこでとどまります。

自治体が公表している「洪水ハザードマップ」や「高潮ハザードマップ」には、過去の大規模水害のデータなどをもとに、実際に水害が発生した場合にどのくらいの範囲で被害がでるのか、またその際の浸水深がどのくらいかなどの情報が示されています。

例えば、江戸川区が2019年5月に発表した「水害ハザードマップ」によると、想定最大規模の巨大台風や大雨で、荒川と江戸川が氾濫した場合に、江戸川区ではほとんどの地域が浸水するとしています。また、浸水期間も長いところでは2週間以上、そして浸水の深さは最大で10メートルと予測しています。

企業は、このように自治体が公開している貴重な情報を十分に活用し、水害に対する準備を進めていくことが極めて重要です。

2015年に水防法が改正され、洪水に係る浸水想定地域が、それまでの「河川整備において基本となる降雨を前提とした区域」から「想定し得る最大規模の降雨を前提とした区域」になっています。

自治体では、その改正を踏まえ順次ハザードマップの改定を行っていますから、自社の対策においてもその前提条件となるハザードマップを再確認しておきましょう。

(3)拠点の立地場所に対する考え方
すでに自社の拠点が水害の被害に見舞われる可能性の高い場所に立地している場合は、その被害想定を前提に対策を立てる必要があります。

ただ、自社拠点のために新たに土地を取得する、あるいは建物を新築するような場合は、考えておくべきことがあります。

新たに土地を取得する場合は、その土地の水害に対する脆弱性を踏まえて検討をすることが重要です。また、水害の被害が予測される土地に建物を新築する場合は、地盤を確認しつつ盛り土をするなどの対策も考えられます。

新たな土地取得、あるいは建物の新築に関しては、水害に対する脆弱性の観点だけではなく、物流やコストなど、さまざまな観点から検討を進める必要があります。しかし、一たび水害に見舞われた場合の被害の大きさも理解した上で、経営判断を行うことが重要です。