密集した住宅街や市街地では、仮に住まいを失うほどの被害ではなくても、地震や風水害によって、建物の一部、敷地の地盤、がれきなどが、家から近隣へ落下、流入などすることで、損害が発生するということが数多く起きます。
たとえば、モデルケースではありますが、「震度6強の地震で所有する自宅の瓦屋根が落下し、隣家のカーポートと自動車を損壊した。損害賠償請求されているが、地震でも支払い義務はあるのか。不可抗力ではないのか」という内容の相談は、弁護士の相談窓口にも多く寄せられる類型です。
民法には、損害賠償責任を負う根拠として「工作物責任」というものがあり、所有者などが、土地の工作物(自宅建物や境界塀など)の「瑕疵」(「かし」と読みます。通常あるべき性能を備えていないという意味です)によって相手方に損害を与えた場合は、損害賠償責任を負うとなっています。工作物の賃借人などの占有者は、自身が損害発生防止のための必要な注意をしていたことを立証できれば、工作物責任を免れます。いっぽう、所有者は「瑕疵」があるとされた場合は、無過失でも責任を負うことになっています。
自然災害が一因となっているケースでは、「瑕疵」があったかどうかの判断において、過去に発生した災害の規模、発生の頻度、発生原因、被害の性質などを総合的に考慮したうえで、それらとの関係で安全性を有していたかどうかという観点から、「瑕疵」の有無を判断しています。自然災害の影響が大きく、「不可抗力」で責任がない(瑕疵がない)という判断になる場合もありうるのです。 また、損害額の算定の際には、自然災害による「寄与度」を考慮して、本来の損害額から減額した金額を賠償するよう判断した裁判例もあります。ここで留意しておきたいのは、たとえば、地震で震度6強だから、というように震度だけを考慮して「瑕疵」の有無が判断されるわけではないということです。
結局のところ、「瑕疵」が認められるためには、様々な資料や調査が必要で、裁判になれば、長期間の争いになることが予想されます。
もちろん、被害が深刻であったり、建物にもともと問題があると予想されるケースでは、真実を明らかにするために裁判を無理に抑制するべきではないという意見もあります。しかし、当事者双方が早期の何らかの解決を求めているケースが多いのも実情です。
そこで利用が期待されるのが弁護士会が設置する「災害ADR(震災ADR)」です(第22回「賃貸借契約の紛争、災害ADRによる解決を」参照)。
中立な弁護士が和解仲介人やあっせん人となって、当事者の言い分をよく聞いたうえで、あっせん案を提示するなどして、当事者の話し合いによる解決を促す制度です。東日本大震災の仙台弁護士会や、熊本地震の熊本県弁護士会ほか、その後の災害でも実施されています。特に「賃貸借契約」「近隣紛争」「がれきなどの損害賠償」「相続問題」「労働問題」「各種契約トラブル」などを中心に、一定程度解決してきた実績があります。
大きな災害があった場合には、都道府県の弁護士会が「災害ADR」を実施しているかどうかを確かめ、まずは、手続きの利用方法などについて相談をしてみることをお勧めします。
(了)
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