■「代替手段」を考えすぎると…
BCPをBCPたらしめているもう1つの要素に「代替手段」があります。代替手段を実行に移すとは、復旧に時間がかかりすぎて顧客離れや資金不足に陥り、事業の存続が危うくなることのないように、本格的な復旧が完了するまでの間を仮復旧手段でしのぐということです。しかしこれを日本のBCPで実行しようとすると、なかなかハードルが高いのです。

これは欧米のBCPと比較すれば一目瞭然です。すでに述べたように、欧米のBCPはあくまでIT業務のためのBCPです。よってそこに適用される「代替手段」は、次のいずれかの意味でしかありません。1つは手作業やアウトソーシングによる代替処理。パソコン入力ができなければ手書きで済ませ、復旧後に入力するか、外注して処理してもらう。

もう1つは、火災や爆破テロなどでオフィスに立ち入りできなくなったら、いわゆる「代替サイト」に切り替えて業務を続ける。代替サイトとはITのバックアップ施設のことで、古くから商用サービス化されています。目標復旧時間の最も短い重要業務については、IT機能をフル装備したバックアップ施設(いわゆるホットサイト)にスタッフを移動させ、そこで業務を続けるといった具合です。

したがって、このように代替手段をITに限定して検討すれば、おおむね現実的な線でBCPを計画することができるでしょう。ところが日本のBCPの場合、製造業などに「代替手段」を適用しようとすれば、それは「代替工場」や「代替部品」のことになってしまう。つまり「製造ラインが被災したら、どこで代替生産するか、いつもの仕入れ先から部品を調達できなかったら、どこから代替部品を入手するか」という、とてもハードルの高い議題に格上げされてしまう。ここに代替手段の実現性が遠のいてしまう原因があるわけです。

■欧米の「IT文化」と日本の「防災文化」の相違?
このように見てくると、「どんな危機に直面しても事業を継続するための計画」として鳴物入りで日本に紹介されたBCPに対する認識を、少し改めなくてはならないように思えてくるのです。

BCPの策定ガイドや市販の本を覗くと、「自然災害、火災、テロなどのあらゆる危機に対処するために…」といった表現を見かけます。こうしたメッセージを読む限り、なるほどBCPというのはすごい計画なんだ、クールではないか!などと思ってしまうのですが、実はそこに欧米人がイメージするBCPと日本人がイメージするBCPとのギャップがある。

欧米人が「あらゆる危機に対処するために…」という言葉を口にするとき、その意味するところは「どんな災害が原因でITが止まるか分からない」、「ビジネスの心臓部はITである。何が起ころうともITだけは守ろう」ということでしょう。彼らが最も懸念するのは、災害そのものの脅威というよりは、危機対応の不備からデータを失い、業務処理ができなくなり、顧客や取引先、投資家に迷惑がかかり、会社の信用や信頼を損なうことなんです。

一方、日本人の私たちが「自然災害、火災、テロ、爆発事故など、あらゆる災害に対処するために…」という表現を目にするとき、イメージとして浮かぶのはビルや工場が崩壊したり、がれきの山に埋まってしまったどうしようもない被災現場の姿です。そして、このような絶望的な状況にもかかわらず戦略的に事業を継続し、あるいはいち早く復旧する合理的な考え方と実現方法がBCPにはあるらしい、私たちはそう期待してしまうのです。

(了)