2016/08/09
昆正和の「これでいいのか!本当に必要なのは命と会社を守るBCP」
■そして誰もいなくなった
一方、中小企業の場合はどうでしょうか。独学でBCP策定ガイドラインや市販の教科書を読んでも納得のいくものが作れない。行政や団体が主催のBCP講習会を開いてもなかなか参加者は集まらないし、仮に集まったとしても端から諦めムードに包まれてしまうこともある。こんなBCPを指導する先生方も困惑顔でしょう。
私は先生方にたずねてみたい。みなさんはどこまでBCPの原則論を理解し、どこまで自信をもってこれに則った指導に当たられているのでしょうか。防災やリスクマネジメントなど、ご自身の得意な知識や経験の話だけでお茶を濁すか、BCPの専門用語のオンパレードで参加者を煙に巻くか、独自に解釈したBCP論で勝負するか、そのいずれかのアプローチをとっているのではないでしょうか。
もちろん指導講師のみなさんが不勉強だとか自己流で間違っているなどというつもりはありません。どの先生も熱心にBCPを理解しようと努めてはいるでしょう。ところがBCPとはこうやって作るものなんだと理屈では分かっても、心から納得できる一本筋の通ったものが見えてこないのです。先生サイドからでさえ、「正直、本に書いてあるようなBCPを作ったからといって実際に役立つとも思えないなあ…」とこぼす声が聞こえてきそうです。
けっきょくBCPを学ぼうとする企業担当者も、これを指導する先生も、上に述べたような理由でBCPに対する期待や熱意は徐々に冷めてしまう。講習会を主催するにも人が集まらない。こうして人々が次第にBCPから離れていってしまっているのが、今日の状況だろうと思います。
■「難しいから」ではなく「そこに意義も価値も見出せない」から作らない
BCPに関する国やシンクタンクのアンケート統計を見ると、企業がBCPを作れない、作らない理由として「知識やスキルがない」「BCPを推進する人材がいない」という回答が毎回上位を占めます。ならばBCPを教える講師やコンサルタントを増やせばよいのかというと、それが現状の解決策にならないことは先ほど述べた通りです。
そもそも私が実感として悟ったのは、「知識やスキルがない」からBCPを作らないのではなく、たとえ作り方を理解できても、そこに「意義や価値を認めていない」という、もっと根深い問題なのです。
手短に言えば、一般の人の目線から見て、今の日本のBCPにはあちこちに非現実的な部分があって、実践に応用するどころか、知識として受け入れることすらためらってしまう、ということです。
なぜこんなことになっているのか。思うに、BCPが欧米から日本に導入される過程で、何か化学変化のようなものを起こしてしまったのではないかと思えるのです。「BCPとはこういうもの。何かご不満でも?」などと澄ました顔ではいられないものがそこにある。
BCPのことを知れば知るほど見えてくる疑問。それを裏付けるように、BCP作りにチャレンジしようとする多くの企業担当者から聞こえてくるネガティブな意見の数々。それが何なのかを、これから見ていきたいと思います。
(了)
昆正和の「これでいいのか!本当に必要なのは命と会社を守るBCP」の他の記事
おすすめ記事
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
-
新任担当者でもすぐに対応できる「アクション・カード」の作り方
4月は人事異動が多く、新たにBCPや防災を担当する人が増える時期である。いざというときの初動を、新任担当者であっても、少しでも早く、そして正確に進められるようにするために、有効なツールとして注目されているのが「アクション・カード」だ。アクション・カードは、災害や緊急事態が発生した際に「誰が・何を・どの順番で行うか」を一覧化した小さなカード形式のツールで、近年では医療機関や行政、企業など幅広い組織で採用されている。
2025/04/12
-
-
-
防災教育を劇的に変える5つのポイント教え方には法則がある!
緊急時に的確な判断と行動を可能にするため、不可欠なのが教育と研修だ。リスクマネジメントやBCMに関連する基本的な知識やスキル習得のために、一般的な授業形式からグループ討議、シミュレーション訓練など多種多様な方法が導入されている。しかし、本当に効果的な「学び」はどのように組み立てるべきなのか。教育工学を専門とする東北学院大学教授の稲垣忠氏に聞いた。
2025/04/10
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方