手足口病にかかった子どもの口の周り

はじめに

手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱(プール熱)は毎年夏に流行する、小児が多くかかるウイルスが原因の感染症です。今回は、この中の手足口病とヘルパンギーナを取り上げます。

I.手足口病

手足口病は例年夏にはやる感染症ですが、今年は5月の連休明けあたりから少しずつ増え、2019年8月6日には1週間の患者数が4万人を超えるという、過去10年で最多の報告数となりました。手足口病は、通常は重篤な疾患ではありませんが、まれに脳炎や髄膜炎になることがあります。原因はコクサッキーA6、コクサッキーA16、エンテロ71、エコーウイルスその他10数種のウイルスとされていますが、その年によって変わります。この疾患は90パーセントが小児に発症しますが、成人に発症することもあります。成人の方が症状が重いことが多いといわれています。

1. 手足口病の特徴

症状 
手足口病は、3〜5日間の潜伏期のあと、発熱、口腔粘膜、手(主に手のひら)、足底や足背などの四肢末梢に、直径2〜3ミリの小さな水疱(すいほう)性の発疹が出現します。発熱は38度程度が多いと言われています。ただし、原因となるウイルスによって症状は多少異なります。今年主に流行しているコクサッキーA6による手足口病では、水疱は少し大きく直径約5ミリ程度のものが多いとされています。また、水疱が生じる部位も四肢末梢に限らず、前腕、時に上腕、大腿からでん部、まれに体幹にもできることがあり、水痘と鑑別が必要なこともあります。ただし水痘のように痂皮(かひ)を形成することは普通はありません。まれにあっても点状の小痂皮(かさぶた)です。熱が39度以上になることもあります。さらにこのウイルスでは数週間してから、爪が脱落する場合があるという特徴があります。

また、エンテロ71による手足口病では、時に重篤な髄膜炎や脳炎の発症を見ることがあります。東南アジアでは多数の死亡例の報告がありますが、日本でも1997年に大阪でエンテロ71感染と関連が濃厚な小児の死亡例が3例報告されています。

感染経路、感染力
感染経路は飛沫感染、接触感染です。接触感染の一部として、便中に排泄されたウイルスが口から入る(糞口感染)もあります。感染力は比較的強いとされています。感染しても症状が出ない不顕性感染もあるといわれています。症状は1週間で治まりますが、排泄物の中に1カ月ぐらいウイルスが排出されるといわれています。

手足口病は、学校保健安全法において、「学校において予防すべき感染症」として個別に規定はされておらず、流行の阻止を目的とする登校(園)停止は有効性が低く、不顕性感染や症状がなくなってからのウイルス排出期間が長いことからも現実的ではないと考えられています。原因ウイルスがいくつもあるため、一生のうちに複数回かかる人もいます。

2.予防

感染経路には接触感染や糞口感染もあり、手洗いは予防として大切です。上述したように排泄物の中に1カ月ぐらいウイルスが排出されるといわれているので、おむつ替えのときやよだれにも注意が必要です。タオルの共有も感染のもとになるので気をつけなくてはなりません。ワクチンはありません。

3.感染した場合の対策・治療

特別な治療法はなく、まれに強いかゆみのあるときは発疹に対して抗ヒスタミ ン薬が含まれる軟膏などを使用する場合もありますが、通常外用薬は使用しません。口腔内病変は痛みを伴い、食事がとれなくなり、脱水を起こすことがありますので、刺激のない薄味の食べ物にし、水分が不足しないように注意する必要があります。特に乳幼児では脱水となり、点滴が必要になる場合があります。通常、発熱に対して解熱剤投与が必要になるようなことはそれほど多くはありません。発熱が続きはき気・嘔吐、頭痛が認められるときは髄膜炎や脳炎を疑う必要があります。