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中国へは、観光、ビジネスで数多くの日本人が訪れていますが、中国での感染症については、あまり知られていません。今回は中国で注意すべき感染症について、お話しいたします。

中国は感染症の感染が大変多い国です。例えば、2003年にはSARS(重症急性呼吸器症候群)が中国南部から感染が拡大し、瞬く間に世界中に伝播したことは記憶に新しいところです。また、2005年以降、世界中に感染が広がった高病原性鳥インフルエンザも中国南部から感染が拡大しています。それでは中国に滞在する場合、どのような感染症に注意すべきでしょうか。

在北京日本大使館が「かかりやすい病気・怪我」として注意を呼びかけているのは、下記の14項目ですが、ほとんどが感染症であることが分かります。(なお、在北京日本大使館は「赴任者に勧奨される予防接種―成人・小児―」として、A型肝炎、B型肝炎、破傷風、日本脳炎、狂犬病の5つを挙げています)

① 下痢症
② 大気汚染
③ 肝炎
④ 寄生虫
⑤ マラリア
⑥ デング熱
⑦ HIV感染・エイズ・性感染症
⑧ 交通事故
⑨ 結核
⑩ 鳥インフルエンザ
⑪ 狂犬病
⑫ 水痘
⑬ 手足口病
⑭ SARS(重症急性呼吸器症候群)


実際に、中国ではどのような感染症が発生しているでしょうか。中国衛生部が2016年2月に発表した2015年1年間の感染者数、死亡者数のランキングは下記のようになります。

【感染者数①手足口病 ②感染性下痢 ③B型肝炎 ④肺結核 ⑤梅毒

死亡者数①エイズ ②肺結核 ③狂犬病 ④B型肝炎 ⑤手足口病


死亡者数の順位は、ここ数年ほとんど変わっていません。2015年のエイズでの死亡者数は12,755人で感染症での死亡者全体の4分の3以上を占めています。かつては、HIVに感染した場合、その後エイズを発症して死に至る怖い病気でしたが、近年では抗HIV薬等を用いたHIV感染症治療技術が発達し、HIV感染が確認された段階で、この治療を受けることにより、死亡者、死亡率は劇的に減少しています。

しかし、中国ではHIV検査等があまり普及していないことから、このような治療の機会を逸してしまい、エイズを発症することが多いとのことです。HIV感染の原因としては、性的感染が最も多いとされていますが、感染者数の第5位に梅毒がランクされていることからも、中国国内での性行為には十分に注意する必要があります。また、献血等を伴なうような治療を受ける際にも、日本への移送等も検討する必要があります。

日本では根絶されている狂犬病についても、中国では注意が必要です(2015年に狂犬病での死亡者数は744人)。この狂犬病はワクチン接種を受けずに発症した場合はほぼ確実に死に至る病気で、極めて怖い病気です。そのため、狂犬病を持つ犬に噛まれた場合には、即座にワクチンを接種する必要があります。また、予防接種を受けることにより、免疫力を高め、発症を遅らせる効果もありますので、中国を含めた海外に渡航する際には是非、お勧め致します。

現在、日本のほか、農林水産大臣が指定する狂犬病の清浄国・地域(狂犬病が根絶されていると見られる国・地域)はオーストラリア、ニュージーランド、フィジー、アイスランド、米国のハワイおよびグアムの6ヶ国・地域しかありません。つまり、世界のほとんどの国で狂犬病の脅威があるということになります。また、狂犬病を媒介する動物は犬の他、猫、きつね、あらいぐま、スカンク等もいますので、このことにも注意が必要です。

ちなみに、厚生労働省のHPでは、世界で1年間に狂犬病で死亡する人の推計は、約55,000人で、うち、アジア地域が31,000人、アフリカ地域24,000人となっています。また、国別では下記のようになりますので、ご注意下さい。

2000年以降での日本人の狂犬病発症例としては、2006年に日本人2人がフィリピンを旅行中に犬に咬まれ、帰国後発症し、死亡したケースがあります。

1位:インド 20,000人(2008年)
2位:パキスタン 2,490人(2006年)
3位:中国 2,466人(2008年)
4位:バングラディシュ 2,000人(2006年)
5位:ミャンマー 1,100人(2006年)
6位:フィリピン 250人(2008年)


次回は、「知られざるミャンマーの自然災害リスク」をお届けします。

(了)