2014/09/20
C+Bousai vol1
市内全域8地区で防災計画


「全く防災に関心のなかった主婦から、自衛隊を退役して地域で防災活動をしている方まで、災害への関心のレベルがさまざまだった。まずそのレベルをそろえるのが大変だった」。地区防災計画を策定するためのワークショップに参加した、花川第2自主防災会事務局長の五十嵐正勝さんは当時を振り返ってそう語る。
石狩市は2012年2月、ワークショップの開催に先立って全体説明会を開催した。地区防災計画の策定にあたってワークショップに参加する委員(住民)に地区の災害特性について知ってもらい、ワークショップ参加への準備を整えてもらうためだ。五十嵐氏が所属する花川地区は、石狩市役所もある市の中心部。石狩市は約30年前に石狩川の氾濫により水害が発生しているが、それ以降大きな災害は発生しておらず、当時のことを覚えている人も少なかった。東日本大震災の後であったため、漠然と津波に対する心配はあっても、石狩川が氾濫したことを知らなかった委員もいたという。
4月に行ったワークショップでは、まず想定される災害の種別と被害の内容、地区の防災特性に関し、集まった25人が1グループ5人で5グループに分かれて議論した。「東日本大震災では想定外の津波が来た。石狩でも想定外の30m級の津波が来たらどうするのか」「地区内には約2500人~3000人の住民がいる。避難所にはそれだけの人数が収容できないのではないか」など、現実的ではない話も飛び出したというが、一番難しかったのが自助・共助と公助の線引きだったとする。住民参加型の集会は、ともすれば公助への陳情に走りやすい。「なぜ市役所がやらないのか、これは市役所の仕事ではないか」という議論も多かった。「それでもワークショップを進めていくうちに、参加者にも当事者意識が芽生え、何とか自分たちで地区防災計画をまとめ上げたいと考えるようになった」(五十嵐氏)。
市が作成した「ワークショップの結果概要」を見てみると、第1回、第2回では「避難を考えた場合、11号線(※市内の幹線道路)を拡幅することが望まれる」、「社会福祉協議会が用意している救急医療キット以外にも備蓄が必要である」など、「誰かに何かをしてもらいたい」という意見が多いが、回を追うごとに「停電の日を設定し、不自由な状態での訓練も必要ではないか」「地域の人も積極的に訓練に参加しなければいけないと思う」など、「自分たちができることは何か」に意見がシフトしているのが分かる。ワークショップは8つのエリアでそれぞれ1年間に4回開催され、参加した委員数は延べ1950人に上った。
地域に貢献できるBCPを目指す

「以前、仙台市内の企業に勤めていたこともあり、震災後に取引先の石巻市のお客様のところに挨拶に行ったら全部津波で流されて更地になっていた。とてもショックだった」と話すのは工業地帯である石狩市新港地区で鋼板などの曲げ加工や各種プラントの溶接組立などを行う阿部鋼材取締役専務執行役員の阿部大祐氏。石巻の経験が、新港地区でのワークショップに参加するきっかけになったという。阿部氏はその後も何度か東北を訪れ、被災した現地の経営者の生々しい話を聞くにつれ、自分も地域のために何かしなければいけないと考えるようになった。「まだ自社ではBCPを策定するに至っていないが、まず自分たちが確実に生き残り、それから地域にも貢献できるようなBCPをこれから策定していきたい」と語ってくれた。

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