安全基準を少しだけ下げて落札した企業
第1回 品質とは何?
株式会社フォーサイツコンサルティング/
執行役員
五十嵐 雅祥
五十嵐 雅祥
(一財)レジリエンス協会幹事。1968年生まれ。外資系投資銀行、保険会社勤務を経て投資ファンド運営会社に参画。国内中堅中小製造業に特化した投資ファンドでのファンドマネジャーとしてM&A業務を手掛ける。2009年より現職。「企業価値を高めるためのリスクマネジメント」のアプローチでコンプライアンス、BCP、内部統制、安全労働衛生、事故防止等のコンサルティングに従事。企業研修をはじめ全国中小企業団体中央会、商工会議所、中小企業大学校等での講師歴多数。
五十嵐 雅祥 の記事をもっとみる >
X閉じる
この機能はリスク対策.PRO限定です。
- クリップ記事やフォロー連載は、マイページでチェック!
- あなただけのマイページが作れます。
はじめまして。フォーサイツコンサルティングの五十嵐雅祥(いがらし・まさよし)と申します。弊社は、リスクマネジメントの専門コンサルティング会社として、2006年に設立しました。私も日々、多くの企業でリスクマネジメントに関するお手伝いをさせていただいています。
さて、皆さんは(または皆さんの会社では)、何のためにリスクマネジメントを行う必要があると考えていらっしゃいいますか?
「取引先からの要請があるので」「リスクが起こってしまったときの損失を少なくするため」……などさまざまな理由があると思いますが、私は、リスクマネジメントの目的はズバリ「会社を倒産させないため」だと思っています。会社が倒産する理由は最終的に「収入」<「支出」という財務的破綻が原因となりますので、リスクマネジメントとは「収入」に係るリスクと「支出」に関わるリスクを管理する手法とも言えます。でも、社長や財務部門だけが考えればいいことではありません。収入や支出に関わるリスクとは、言い換えれば本来あるべき姿との「差」であり、その差を生じさせる要因は、社員一人ひとりの行動にある、その行動を管理するのがリスクマネジメントです。従って、経営への影響を考えないリスマネジメントはあり得ませんし、従業員一人ひとりにどう当事者意識を持たせるかがリスクマネジメント活動の最も重要で、難しい部分にもなります。その前提で、この連載では企業の収入・支出に関わるリスクを大きく4つのテーマに分け(①戦略リスク、②オペレーショナル(企業内部)リスク、③ハザード(企業外部)リスク、④財務リスク)、毎回1つずつリスクの事例と、それに関する解説および対策のポイントを考察していきたいと思います。
□事例 入札のために座席シートの安全基準を下げる
中堅製造メーカーA社は、高速鉄道車両用の座席(シート)の製造に関する入札に参加することになりました。もし落札できれば、A社の業績の向上に大きくつながるビッグプロジェクトということで社長の期待も大きく、プロジェクトチームを組成。Bさんはプロジェクトリーダ-に任命されました。
入札日が迫ってきたある日、ライバル社の状況を検討する会議の席上、A社のコストがやや割高になっていることが分かりました。しかし、下請けには既にギリギリまでコスト削減の要請を行っており、どう頑張ってもこれ以上のコスト低下は望めそうもありません。ただ、あとほんの少しだけ安くできれば、ライバル社を抑えて落札できる状況にもあるようです。そんなある日、プロジェクトメンバーのCさんからこんな提案がありました。「車両メーカーの指定してきた安全基準は過剰すぎる。少しだけ基準より外れた値で作ったとしても、人の命に係わることなどないはずだ。検査も全て社内で行うのであるから、検査データの数値も何とでもなるだろう……」。
BさんはCさんの提案を受け入れました。Bさんの決断により、求められた安全基準の値にやや達しないけれど、大幅なコストダウンに成功したA社は無事落札に成功。車両メーカーから大量に受注を受け、業績も大幅に向上しました。
あの内部通報が行われるまでは……。
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方