2016/06/07
おかしくないか? 日本の防災対策
もうやめよう「地震発生⇒火災発生⇒避難訓練」
今回のテーマは震災対策訓練です。多くの企業や病院・施設などでは、防災訓練といえば「地震発生⇒火災発生⇒避難」を想定した訓練で、訓練内容も例年同様。参加者も限定されるなど、マンネリ化していませんか。今回は、齋藤塾流「実践的な震災対策訓練」のポイントを、すべて公開します。次回は、「災害関連死ゼロを目指して」です。
編集部注:この記事は「リスク対策.com」本誌2014年11月25日号(Vol.46)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年6月7日)
1 形骸化している防災訓練
日本では、地震や台風といった自然災害に見舞われることが多いことや、消防法に基づく行政や消防署からの指導もあり、ほとんどの企業や病院・施設などで防災訓練が行われています。
これまでの訓練の多くは、「○時○分、□□で火災発生、消火班による消火不能、直ちに△△へ避難」となっており、自衛消防隊隊長の指揮のもと、消火班、避難誘導班、救護班など、それぞれの役割に応じた訓練を行ってきました。予定された時間に必ず責任者がいて、必要な指揮を執り、必要な資機材もあらかじめ用意され、各参加者は何分後に何を実施するか決められており、何分後に火災発生、初期消火、避難誘導など、あらかじめ定められたシナリオに沿った行動が行われています。

このような訓練では、次のような問題点が指摘されます。
○参加者が固定化し、参加意識も低く、形骸化している
○訓練のねらいが不明瞭である
○訓練回数が少ない
○勤務時間中の訓練で、夜間帯での訓練をしていない
○訓練シナリオに沿って行動しているだけである
○電気、通信等が停止した想定の訓練はしていない
○訓練の実態とマニュアル等とが合っていない
○訓練で得られた教訓等の記録や、改善がされていない
こうした「シナリオを読み上げる訓練」または「シナリオに沿った行動訓練」を繰り返し行っても、実際の災害にはあまり役に立ちません。災害は訓練で想定していた通りに発生するのではなく、想定しない事態が発生することが多いからです。
2 訓練目標を明確にする
貴重な時間を使って訓練をするのであれば、より実践的で、かつ実効性が上がるようにするために、参加者には細かなシナリオを与えず、想定外の事態にどう行動をすべきかを考えさせる必要があります。
では、どのようにしたら実効ある訓練ができるのかというと、まずは「訓練目標を明確化」することです。訓練は、目的に応じていくつかの分類に分けられます。目的に沿って、具体的な訓練目標を立てることが重要です。
担当者や組織への習熟訓練は、人事異動があるたびに繰り返し行うことが必要です。
①テスト…BCPやマニュアルが、実際に動くのかどうかを検証する
②習熟研修…BCPやマニュアルに基づき、職員に習熟させる
③演習…被害状況を想定した訓練等を実施し、その対応等を検証する
④連携…関係機関が参加した連携訓練を実施し、連携等を検証する
- keyword
- おかしくないか日本の防災対策
おかしくないか? 日本の防災対策の他の記事
- 【最終回】震災対策訓練を考える~シナリオなき訓練のススメ~
- 第4回 無駄な備蓄をしないポイント
- 番外編 震災直後の「情報の共有化と情報トリアージ」
- 第3回 企業よ、急いで安否確認をするな
- 第2回 被害想定を信じるな
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方