4 クラウドサービス利用下における証拠収集の問題 
機密情報の持ち出しなどの不正行為は、電子メールに機密情報のファイルを添付して送信する方法によることが多いのですが、メーラーを利用して送信した電子メールであれば、電子メールが削除されても、デジタルフォレンジック(コンピュータに関する犯罪や法的紛争が生じた際に、原因究明などに必要な機器や電子的記録を収集・分析する手段や技術)により、削除されたデータを発見して復旧し、不正行為の証拠とすることができます。 しかしながら、機密情報ファイルをウェブメールサービスを利用して送信した場合は、企業のパソコンにウェブメールサービスの使用の痕跡は残っても、証拠となるメールデータ自体が残されているケースが少ないという状況が発生しています。 

また、機密情報のデータが企業のサーバから社員個人が利用しているクラウドサービス上に動かされてしまうと、個人向けクラウドサービスのインターネットサイトの閲覧履歴などの痕跡は残るものの、さまざまな複合的な調査が必要とされ、不正行為の証拠収集は困難になってしまいます。クラウドサービス提供事業者のサーバ内にある電子メールなどのデータを入手することも考えられますが、そのクラウドのサーバの所在が日本国内か海外かも分からず、提供事業者が海外の企業ということもあるために、実際に証拠を収集することは、極めて困難です。

5 個人向けクラウドサービスの利用規制
不正行為の防止、また、証拠の収集の困難さを考慮すれば、社内での個人向けクラウドサービスの利用を制限することが考えられます。利用制限には、2つの方法があります。1つは、社内のパソコンにおいて個人向けクラウドサービスの利用について技術的に利用制限・アクセス制限をかけることです。2つ目は、「個人向けクラウドサービス利用規程」を策定して社員に遵守させることです。ただ、個人向けクラウドサービスの利用は、まだ始まったばかりですので、利用規程を定めていない企業が多いように思われます。 

個人向けクラウドサービスに対する技術的な利用制限・アクセス制限がかけられていない状況であれば、早急に個人向けクラウドサービス利用規程を策定すること、あるいは、従前の情報管理規程などにクラウドサービスの利用に関する規定を追加することが必要であると思われます。

6クラウドサービスを利用した在宅勤務の留意点

(1)増加傾向にある在宅勤務

在宅形式で業務に従事する労働者の数は、東日本大震災を契機として増加する傾向にあります。データ通信の高速化や通信エリアの拡大、スマートフォンやタブレット端末などの新しい情報通信機器の普及、そして企業のクラウドコンピューティング環境の整備などが進む中で、在宅勤務者の数は、今後も増えていくものと思われます。 

本来は社内で行うべき業務を自宅で遂行することを認める在宅勤務制度の導入には、社員と企業の双方にとって、メリット・デメリットがあります。企業は、これらのメリット・デメリットがあることを踏まえて、在宅勤務制度の導入を検討する必要があります。

(2)在宅勤務者の労働時間管理
在宅勤務制度の導入に当たっては、厚生労働省の「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(以下、「在宅勤務ガイドライン」といいます。に則った労務管理体制を構築することが求められます)。在宅勤務ガイドラインでは、在宅勤務(労働者が、労働時間の全部または一部について、自宅で情報通信機器を用いて行う勤務形態)の導入に際しての留意点や、在宅勤務者の労働時間の管理に関する注意点などが記載されています。 

在宅勤務者の労働時間管理については、事業場外のみなし労働時間制のほか、裁量労働制やフレックスタイム制によることが考えられます。事業場外のみなし労働時間制や裁量労働制による場合には、どの程度の時間について働いたとみなすのが適当かを判断することが必要となります。いずれの制度を導入するにしても、企業としては、日報の提出などによる本人の自己申告に基づいた労働時間管理を行うことになるため、実態を把握することが難しいという問題があります。労働時間を把握する方法としては、在宅勤務者が使用するパソコンに1日当たりの延べ利用時間に制限を設けるソフトウェアをインストールする、パソコンのログデータに基づいた報告書を作成するなどが考えられます。 

労働時間の管理は、労働災害防止の観点からも重要となることから、クラウドサービスの導入に伴って在宅勤務制度を導入するに際しては、ルールを定め、就業規則を整備しておくことが大切です。