最近、東京都区部では、「大地震が起きた場合でも、避難所への避難は最後の手段です」と行政が住民に呼びかけることが珍しくない。一例を挙げれば、東京都板橋区は「みんなで高める板橋の防災力」というパンフレットにおいて、「在宅(自宅)避難が基本です∼避難は最後の手段です∼自宅に被害がなく電気や水道等のライフラインに多少の問題があっても、安全に住める状態であれば、慣れ親しんだ自宅で生活しましょう」と呼びかけている。 

ある会合でこの話をしたところ、マンション管理組合の理事の方から、「一軒家であれば、自分の家族でどうするか判断すればいいが、マンションだとどういったことを考えておけばよいのか」とのご質問をいただいた。そこで、今回は、マンション管理組合のBCPをテーマとすることにした。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2014年7月25日号(Vol.43)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年7月15日)

震災によるマンションの被害例
そもそもマンションとは、複数の区分所有者が所有する建物で、人が居住できる専有部分があるものをいう(マンション管理適正化法)。わが国では1960年代から盛んに建設が進められ、2012年末時点では全国で590万世帯、1450万人が住んでいる(国土交通省推計)。定義上明確にはなっていないが、通常は鉄筋コンクリート造や鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造など木造以外の構造である。 

さて、過去の地震災害において、マンションではどのような被害が生じたのか。マンションの本体ともいうべき建物躯体の被害件数を表1に取りまとめた。 

この数字だけを見ると、東日本大震災における建物躯体の被害率は非常に低いと感じられる。一方で、マンション管理支援ネットワークせんだい・みやぎが行った分譲マンションの被災状況に関するアンケート調査によれば、宮城県内のマンション管理組合227組合からの回答において、全壊18、大規模半壊15、半壊28という結果も出ている。なぜこのような食い違いが生じるのか。 

実は、この食い違いは、調査のよりどころとなる基準の違いに起因する。高層住宅管理業協会が行った大破・中破・小破という判断は、日本建築学会が1980年に発表した基準に基づき、主に柱や耐力壁といった構造材の被害を根拠として行われている。一方、自治体が行なう罹災証明発行のための調査における全壊・大規模半壊・半壊・一部損壊といった判断は、内閣府が2001年6月28日に発表した基準に基づき、主に住家の損壊が延べ床面積に占める割合や住家を構成する主要な要素の損害割合を根拠として行われている。結論として、日本建築学会の基準により小破であっても、罹災証明上は、全壊と判断されることがある。構造材に大きな被害がないとしても、ドアが開かない、トイレが使えないといった生活上の支障が大きいという被災事例は多数存在するからである。 

このように、建物躯体の被害については、様々な判断が併存するところだが、一定の被害が生じたことは間違いない。また、天井の落下、開放廊下やベランダの壁の損傷、外壁の崩落といった被害は、過去の地震災害においても数多くのマンションで発生したことが確認されている。