第5回 賃貸不動産管理業の事業継続計画

小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
2016/06/10
業種別BCPのあり方
小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2013年9月25日号(Vol.39)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年6月10日)
不動産業には、主に4つの業態がある。分譲・開発業、流通業、賃貸業(代理・仲介)、そして今回取り上げる賃貸不動産管理業である。この業態は、宅地建物取引業法の規制を受けないため、不動産所有者(オーナー)からの委託に基づいて、受託物件の運営管理業務を様々な契約形態により実施していることが特徴である。
一口に賃貸不動産といっても、オフィスビル、賃貸住宅、駐車場などそれぞれの物件ごとに特徴があるが、オフィスビルを主力とする事業者の事業継続計画については、不動産協会の「事業継続計画ガイドライン~オフィス賃貸事業編~」において既に検討がなされている。しかし、規模が小さいことが多い賃貸住宅(貸家及びマンション)を主力とする事業者については、検討例が少なく、事業継続計画への取り組みは、今後の課題となっている。
そこで、本稿では、主に賃貸住宅を取り扱う賃貸不動産管理業の事業継続を考える。
賃貸不動産管理業が考えるべき平時からの対策
賃貸不動産管理業の業務を大きく分けると、入居者募集や契約締結といった賃貸借媒介業務、賃料の徴収や契約の更新及び解約といった契約管理業務、建物保守、清掃、警備、防火、防犯といったプロパティマネジメント業務に大別することができる。これに加えて、オーナーに対する賃貸経営や修繕計画に関する助言をするコンサルティング業務を行っている事業者も少なくない。
この中で、広域被害をもたらす緊急時を想定した場合に停止が許されない業務は、まずプロパティマネジメント業務であろう。具体的には建物の点検確認は、発生直後から対応を開始していく必要がある。
これに加えて、契約管理業務に関係する証憑(しょうひょう=証拠の意)や文書を安全な形で確保することが重要である。この業務は、賃料を借主から徴収し、諸経費などを控除してオーナーに支払う形態で業務を行っていることが多く、日常的に預り金が発生している。仮に証憑や文書などを喪失すると、オーナーにも取引の清算が困難になるなどの不測の被害を与えかねない。オーナーとの信頼関係が事業の基盤である賃貸不動産管理業にとって、これら証憑、文書などの保管は、緊急時にも継続されるべき業務であるといえよう。賃貸不動産管理業の事業継続を考える上で悩ましいのは、オーナーの意向によって、業務の形態が多様であることである。このため、緊急時に備えた対応も各社が自社の業務プロセスに応じた形で必要な対応を検討する余地が大きくなる。一例として、賃料徴収の諸形態ごとに、緊急時の業務継続に備えた平時からの対策を検討する。
これらの様々な対応項目がオーナーごとあるいは物件ごとに変わるのが賃貸不動産管理業の事業継続計画を考える際に難しい問題となる特性である。しかし、事業継続計画の検討プロセスは他業種と変わらない。重要なのは、自社の現状の業務プロセスごとに、喪失したら業務が停止する経営資源を特定し、必要な対策を検討することである。
これまでの相談事例やヒアリング調査の結果からすると、賃貸不動産管理業が緊急時に備えて事前に取り組んでおくべき対応としては、以下が挙げられる。
緊急時に備えて考えておく対応
いかなる自然災害、事件事故にも共通して考えておくべき緊急時の対応方針として、最低限以下の項目はルールを決めておく必要がある。
賃貸不動産管理業の応急対応
広域被害が生じるような緊急時には、まずオーナーの安否確認に取り組む必要がある。
オーナーには、物件の状況に応じて必要な判断を下してもらわなければならない。特に受託物件が大きな被害を受けている場合、修繕するのか、取り壊すのかという大きな方向性は、なるべく早い段階でオーナー自身に判断してもらう必要がある。これにより、借主に対する対応が異なってくるためである。
また、同時並行で受託物件の被害確認と借主の安否確認に取り組む必要がある。
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