第3回 保育施設の事業継続
小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
2016/05/27
業種別BCPのあり方
小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
幼稚園、保育園、認定こども園などの施設(以下「保育施設」という)は、全国に4万以上設置されており、子どもの成長を支援する重要な役割を果たしている。これらの施設の運営が突然停止された場合、子どもの保護者の多くは、子どもを預けることができず、就労に支障が出る可能性がある。保護者は、主に実務を担当する若い世代であり、その影響は大きい。この影響を考慮すると、保育施設は、子どものみならず社会を支えるインフラの一つともいいうるほど重要性が高い。そこで、本稿では、保育施設の事業継続を考える。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2013年5月25日号(Vol.37)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年5月27日)
■安全確保のためのハード対策
保育施設の事業継続を考える前提として、何らかの災害、事件・事故が発生した場合(以下「緊急時」とする)でも子どもと職員の安全を確保できる環境づくりが重要となる。安全性が高い環境が構築されていれば、被害が最小限に留められ、様々な危険が伴いかねない避難所への移動ではなく、施設内で待機できる可能性が高まる。また、結果として復旧の早期化も期待できる。
では何に備えるかが問題となるが、消防法上の義務でもあることから、地震及び火災への備えを優先するべきである。そのために必要な対応策としては主に以下の8点がある。(表1)
これらのハード対策に加えて、備蓄についても考えておきたい。緊急時、特に災害の発生直後には普段容易に入手できるような物資でも、入手が困難になることが少なくないためである。しかし、備蓄を揃え、保管する管理面のコストや保管スペースの確保等の負担は決して小さなものではない。この点、保護者と負担を分担する保育施設が出てきており、参考として紹介する。
関東地方のある保育施設では、子ども用の飲食物やオムツなどを防災袋内に保護者が保管するルールを運用している。消費期限の管理も保護者が行う。保護者が管理するルールとした背景には、近年、さまざまな飲食物に起因するアレルギー等の持病を持つ子どもの増加、おむつなどはサイズが月齢に応じて変化していくなどの事情があるとのことであった。防災袋はタオルで作り、緊急連絡先も縫い付ける。3歳児以上は毎月の避難訓練で背負って移動し、2歳児以下は職員がまとめて持ち出す対応としている。
また、別の保育施設では、入園時に5年保存の飲料水とビスケットなど子どもが食べやすいタイプの保存食を保護者が購入し、施設が保管するルールを運用している。卒園時にこれらの備蓄は返還することにしている。
特に、首都圏、近畿圏、中京圏など保護者の多くが公共交通機関で通勤する地域では、備蓄の必要性はより高まる。これは、公共交通機関の運行停止などにより、保護者がすぐに帰宅できないことが想定されるためである。ある研究によれば、東日本大震災の際、保護者のお迎えが最も遅かった事例は3月14日の14時であり、東京都の保育園では夜通しの引き渡しが行われたとの調査結果が示されている。先日施行された東京都帰宅困難者対策条例が最大3日間程度、社員を待機させるよう事業者に求めていることとあわせ、こうした事例を参考に自施設の備蓄について検討することをお勧めする。
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