ワールド ファイアーファイターズ:世界の消防新事情
さらに進化したデジタルタイマー付き止血帯について
バイスタンダー(居合わせた人)でも簡単に止血
一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事/
一般社団法人 日本国際動物救命救急協会 代表理事
サニー カミヤ
サニー カミヤ
元福岡市消防局レスキュー隊小隊長。元国際緊急援助隊。元ニューヨーク州救急隊員。台風下の博多湾で起きた韓国籍貨物船事故で4名を救助し、内閣総理大臣表彰受賞。人命救助者数は1500名を超える。世田谷区防災士会理事。G4S 警備保障会社 セキュリティーコンサルタント、FCR株式会社 鉄道の人的災害対応顧問、株式会社レスキュープラス 上級災害対策指導官。防災コンサルタント、セミナー、講演会など日本全国で活躍中。特定非営利活動法人ジャパンハート国際緊急救援事業顧問、特定非営利活動法人ピースウィンズ合同レスキューチームアドバイザー。
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2018年6月9日、東海道新幹線「のぞみ」東京発新大阪行きの最終便で、愛知県在住の無職、小島一朗容疑者(22)が乗客にナタなどを振るって、男性1人が死亡。女性2人が重傷を負うという衝撃的な事件が起こった。
この事件を受けて、JR各社では警察官や警備員による駅や車内の巡回を強化しており、9月4日のJR東日本ニュースによると、今後は催涙スプレーや耐刃の手袋、ベストなどの車内への常備や、止血パッド、ゴム手袋などの医療器具の拡充も検討中との公式発表があった。
■新幹線におけるさらなるセキュリティ向上の取組みについて(JR東日本ニュース)
http://www.jreast.co.jp/press/2018/20180903.pdf
ただ、上記リンクPDFの別紙2「医療用具の配備拡充」にナイフなどでの刺傷の負傷者における大量出血の救命処置として、非常に有効な止血帯が考慮されていないことが非常に残念であり、課題であると思われる。
世界各地で起こったナイフによるテロなどの殺傷事件の負傷者は大量出血による失血・出血性ショックや低容量性のショック等の死因がほとんどで、動脈を切られるなど、複数箇所刺されると、受傷後、数分以内で死亡している。(下記資料15ページ参照)。
■即席爆発装置・アクティブシューターインシデントにおける生存性向上のためのファーストレスポンダガイド(米国国土安全保障省)
(First Responder Guide for Improving Survivability in Improvised Explosive Device and/or Active Shooter Incidents)
https://www.dhs.gov/sites/default/files/publications/First%20Responder%20Guidance%20June%202015%20FINAL%202.pdf
人間の血液量は成人で体重の13分の1~14分の1と言われている。体格や体質によって多少の誤差はあるが、体重70kg程の成人であれば5L弱が全血液量と想像される。
大量の出血を起こすと、細胞へ送られる血液が不足してダメージを受け、臓器への血液循環が極端に悪くなった状態となり、内臓機能を維持するための血液量を保つことができなくなってしまう、出血性ショック(急性循環不全)状態を経て「出血性ショック死」や「失血死」など、生命が危険な状態に至る。
出血は大きく二つに分けられる。
1 動脈性出血(圧が高く鮮紅色の拍動にあわせ噴出)
2 静脈性出血(いわゆる通常の出血で暗赤色)
重篤な状態に移行する最も危険な出血は「動脈性出血」であり、迅速で的確な止血と救命連鎖発動が必要な状態である。
特に総頸動脈(7~8mm)、内&外頸動脈(5~6mm)、椎骨動脈(3~4m)前後をそれぞれの脈がある深さまで到達する可能性がある、刃渡り4cm以上のナイフで切られたり、胸部大動脈(直径約25~30mm)、腹部大動脈(20~25mm)を複数箇所刺されれば、十数秒〜数分以内で致死的な状態となる。
一般的に急性の20~30%の血液(体重70kgの人では1~1.5Lの出血)を急速に失うと出血性ショックという重い状態になる。
30%以上を失えば生命が危険に瀕すると言われていることから、出血時の救命処置である止血は人命を守るためには最も有効な救命処置だ。そのためには、殺傷事件の現場に居合わせた人(バイスタンダー)が、殺傷犯がいないことを確認し、感染予防手袋を装着するなどできる限りの身の安全を確保した後、早急に止血帯などの止血効果の高い救命用具を使用し、確実に体外出血、体内出血を問わず、出血のスピードと出血の量をコントロールすることが重要だ。
もちろん、体重を掛けて圧迫止血をすることも段階的には可能ではあると思うが、救急隊や医療器具を装備した医療関係者などが到着するのに時間がかかる場合や、複数の刺傷による負傷者がいる場合は複数のバイスタンダーの協力を得るか、救命者が限られる場合は、止血帯などを用いて、両手を空かせる必要が有る。
少し前に、従来の止血帯よりもさらに使いやすく、一般人のバイスタンダーが簡単に負傷者の手当(四肢・体幹部・頭部の止血、骨折の固定、ナイフなどによる刺傷、飛散物による杙創)が行なうことができるオールエイド的救急バンデージとして、世界的に急速に普及しているSWAT-Tを紹介した。今回は、止血帯として最も早く、簡単に装着救命用具として、アメリカの救急隊にも採用が増えているSTATをご紹介する。
■自分たちで命を助け合う「事態救命」が必要~オールエイド的救急バンデージ「SWAT-T」について
http://www.risktaisaku.com/articles/print/5081
Medical Tourniquet Works Like A Zip Tie (出典:Youtube)
STATは、CATやSOFT、イスラエルなどのほかの救命用具に比べると、圧倒的に操作性も簡単で、さほど訓練の必要もなく早く装着でき、また、小児や動物にも使えるため、汎用性が高い止血帯として、アメリカの救急業界ではSWAT-Tと共に注目されている。
EMT関係の専門雑誌などでは、「CATやSOFT、イスラエルバンデージなどの軍用止血帯は特殊な訓練を要することと、バイスタンダーなどの一般人がその場で渡されて使える可能性が低いため、大規模殺傷イベントでは使える人がほとんど居ないのが現状であり、SWAT-TやSTATの方が汎用性がある」とのコメントも見受けられる。
■S.T.A.T. Medical Devices(Youtube動画集)
https://www.youtube.com/channel/UCs1zXX4Itu3OpCv1iIrvEPg/videos
たしかにSTATは一般人が見ても、日常でも使用経験のあるジップタイと同じ要領で装着できる。また、平均的な装着スピードも平均5秒〜10秒以下であることなど、バイスタンダーなどでも説明せずに使える便利なメディカルデバイスである。
体幹部の刺傷や杙創、創傷などにも使えるSWAT-Tは、すでにアメリカの多くの消防署で採用されているが、STATと併用して装備することで、同時多発的刺傷事件など、複数の刺傷による負傷者の出血を止血することが可能になる。
また、他の止血帯にはない特徴は、端末のボタンを押すだけで、デジタルタイマーが始動するため、時間管理も容易に行えることだ。
従来の止血帯で止血処置すれば、感染防止用手袋は血まみれになり、処置時間を記録する白い布は血液で真っ赤に染まる。ポケット等から取り出したボールペンで装着時間をメモしても、インクボールが血液で滑って読み取れない可能性も高い。ペンを取り出して、時計を見て、記録するプロセスだけでも10秒近くは掛かるため、大量出血状態にあり、早急な救命処置が必要な負傷者にとっては、大幅な時間短縮になる。
S.T.A.T. Tourniquet(出典:Youtube)
以下が、体幹部の刺傷や杙創、創傷などにも使えるSWAT-Tのウェブサイトだ。
■SWAT-T
http://www.swattourniquet.com
乳幼児から大人はもちろん、ペットなどの小型の動物にも使用でき、平均5秒で簡単に大量出血をコントロール可能なタイマー付き止血帯のSTATのウェブサイトはこちら。
■STAT
http://www.stattourniquet.com
STATのスペック
1.タイマー
ボタンを押すだけでデジタルタイマーが起動し、カウントを開始。
2.精密締め付け
2ミリメートル単位で締め付けられる。
3.目に見える指示
使い方が印刷指示されている。
4.リリース可能なレバー
手術のためにSTATを取り外すために使用される。
5.ロック機構
自動セルフロック。
6. 耐弾丸性
撃たれた後のSTAT再止血。
7.安全リリースカバー
安全輸送用リリースレバー。
8.指ループ
止血時、滑るときなどに穴に指を入れて引き締めることができる。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに限らず、都会では、通勤駅や大規模商業ビルのロビーなどのソフトターゲットと呼ばれている、日常的に数十万人行き通う場所や、新幹線や鉄道など容易に医療機関へ運べない閉鎖空間内は、テロリストや犯罪企図者にとっては、格好なターゲットであり、ホットゾーンとなり得る。
できれば条例などで、それらのホットゾーンにはAED(自動体外式除細動器)と一緒にE.M.K.A.D(Emergency Medical Kit for Any Disasters)という下記の内容物を含めた事態救命キットの常備をおすすめしたい。
STAT救急セットの内容は下記の通り。簡単にAEDの横に設置可能。
・STAT(防水性能があるタイマー付き止血帯、幼児・動物・防水・水中での使用可、消毒後再利用可)x3
・SWAT-T(体幹部、頭部、四肢の止血、骨折時の副子帯、幼児・動物・防水・水中での使用可、消毒後再利用可)x 3
・救急用被服等裁断はさみ x 2
・感染防止手袋、ゴーグル、マスクx 各 3
・約5分で止血剤と血液が凝固する止血包帯と止血ガーゼ x 3
・防水&強力粘着性救急テープと油性ペンx 各 3
・START法All Riskトリアージタグx10 枚
近年は、さまざまな偏った考え方を持った若者が殺人の理由を「誰でも良かった」「ストレスがたまっていた」「ムシャクシャしていた」と平気で発言する時代だ。さらに下記の来日外国人犯罪の検挙状況からもわかるように、外国人犯罪組織が日本国内の犯罪組織などと手を組んで、犯罪ビジネスを企んでいる時代である。
■来日外国人犯罪の検挙状況 - 警察庁 平成27年(警察庁刑事局組織犯罪対策部 国際捜査管理官)
https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kokusaisousa/kokusai/H27_rainichi.pdf
できれば、可能な限り、誰もが居合わせただけで巻き込まれるような悲惨な事件で死なせないような社会を作るために、国や市町村担当者、企業の責任者などは、その関係する公務の範疇において、AEDとともにSTAT救急セット等、できる限りの危険を予測して安全を追求し、最低限の具体的な準備や行動を実現して欲しいと思う。
(了)
一般社団法人 日本防災教育訓練センター
https://irescue.jp
info@irescue.jp
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