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トランプ大統領が関税を積極的に発動する姿勢は、彼の政治哲学と米国経済への危機感に深く根ざしている。2025年3月3日現在、第2次トランプ政権が発足して約2カ月が経過し、関税政策が再び注目を集めている。例えば、トランプ氏は中国からの合成麻薬流入を理由に、メキシコとカナダ経由での輸入品に対する関税引き上げを検討していると報じられている。この関税重視の姿勢は、なぜここまで顕著なのか。その背景を政治的、経済的、歴史的観点から探る。

まず、政治的背景として、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」理念が挙げられる。彼は2016年の大統領選で、グローバル化によって米国の製造業が衰退し、労働者が職を失ったと訴え、支持を集めた。この主張は、第2次政権でも変わらない。関税は、海外からの安価な輸入品を抑制し、国内産業を保護する手段と位置付けられている。例えば、第1次政権時の2018年、中国からの輸入品に最大25%の関税を課した「貿易戦争」は、中国の不公正な貿易慣行への対抗策として支持された。2025年時点でも、トランプ氏は中国を「経済的脅威」とみなし、関税を外交ツールとして活用する意向を示している。

この姿勢は、支持基盤である中産階級や労働者層へのアピールとも直結している。関税による輸入品の価格上昇は、国内製造業の競争力を高め、雇用創出につながると喧伝されている。実際、第1次政権下での鉄鋼・アルミニウム関税は、一部製造業に恩恵をもたらした。ただし、消費者物価の上昇や報復関税による輸出産業の打撃といった副作用も無視できない。2025年の関税政策も同様のトレードオフを孕むが、トランプ氏は支持層への「目に見える成果」を優先している。

次に、経済的背景として、米国の貿易赤字への懸念がある。2025年時点で、米国は中国やメキシコなどとの貿易で巨額の赤字を抱えている。商務省のデータによれば、2024年の対中貿易赤字は約2500億ドルに上ると推定される。トランプ氏はこれを「米国の富が海外に流出している証拠」と批判し、関税で是正を図る。関税により輸入品のコストが上がれば、企業が国内生産にシフトするか、輸入先を米国に友好的な国に変更する可能性があると期待されている。2025年のメキシコ・カナダへの関税検討も、こうした貿易収支改善の一環と解釈できる。

さらに、関税は国家安全保障とも結びついている。トランプ氏は、中国が合成麻薬(フェンタニルなど)をメキシコ経由で米国に流入させ、薬物危機を悪化させていると非難している。これは経済問題を超え、公衆衛生と安全保障の危機と位置付けられる。関税を課すことで、中国への経済的圧力を強め、麻薬流入を抑止する狙いがある。このような「経済的武器化」は、第1次政権での対中政策の延長線上にある。