ナラティブの分析を通して企業に脅威を与える問題の核心に迫る(イメージ:写真AC)

経営者の不安や疑念を取り除くことが焦点

リスク対策.comが発行している年初の「BCPリーダーズ」に、2025年重点リスクに対する企業の危機管理を問うアンケートがあり、三つの対策案を例示して回答しましたが、その最初に「テクノロジーによる未知の事態に備えるシナリオ・シンキング」を挙げました。

前回から続いてご紹介する対話の後半では、民間企業が自社ビジネスに沿ったシナリオ・シンキングを行おうというとき、とば口まで案内してくれる情報分析官の仕事についてお話を聞いていくことになります。

デジタル情報環境のなかで具体的にどういったナラティブ(ストーリー/デマ)が流れていて、そのうち、どういうものを放置しておくと企業のブランドやレピュテーション、あるいは次の一手に障害となり得るのか、意思決定に資する報告をまとめてくれるのが情報分析官の仕事です。

ポール・バルテルさんが勤務する米国PeakMetrics社のHPを見ますと、Uncover The Online Narratives Threatening Your Organization(貴社を脅かすオンライン上の脅威となるナラティブをあぶり出します)とあります。放っておくとブランドのレピュテーションや財務的安定性、世間の見る目に有害になり得る、というわけです。

ひと昔前から、広報部向けの社外サービスとして、キーワード検索した誹謗中傷やデマなどを提示してくれるものはありましたが、単語ではなく物語性を分析するところに違いがありそうです。つまりその焦点は、会社なかんずく経営者から、F.U.D.(恐怖/Fear、不安/Uncertainty、疑念/Doubt)を除いていくことになるのだろうと理解します。

(以下、引用)


偽情報との戦いに勝つための新しい仕事                     

                       Paul Bartel & Steve Durbin/ISF
                             20 January 2025
                               ISF Podcast

前回からのつづき)
スティーブ・ダービン:さて、法執行機関が長年不満を訴えてきたことの一つに、偽情報の発信源が明らかであるにもかかわらず、米国や欧州などとの間で犯罪者引渡協定を結んでいない国々であるために、それに対して何もできないことがあります。米国国内、そしてNATO諸国との協力体制をさらに強化するためにはどのような改善が必要だとお考えですか?

情報環境におけるソーシャルメディア企業の責任

ポール・バーテル:そうですね。ソーシャルメディアの問題の一つは、誰でも好き勝手に投稿できてしまうことだと思います。そのため、今まさに始めるべき最も重要なことは、ソーシャルメディア企業は、自社のプラットフォームで偽情報を拡散するユーザー層に対して責任を持った対応をすることだと考えています。

現在、偽情報を拡散しているアカウントを特定できる仕組みやツールはすでに整っています。人々がその情報をソーシャルメディア企業に提供し「これがテロリストのプロパガンダを拡散している1200のアカウントのリストです。これらのアカウントをプラットフォームから削除する必要があります」と伝えることが求められているのです。

さらにもう一つ必要なのは、偽情報に対抗するメッセージの発信です。そうした連中がプロパガンダを拡散しているのを目にしたとき、きっぱりと対抗するにはどう言えばいいのでしょうか?

例えば「ガザの人道支援用の埠頭は、瓦礫や遺体を使って建設されている。米国がつくっているのはそういうもの」というようなデマを見た場合、まず「それは事実ではない」と明確に否定することが大切です。そしてその埠頭が実際にどのように建設されているのか証拠を示す必要があります。なぜなら、実際には非常に近代的な構造物であり、瓦礫を使って建設されているわけではないことは明らかだからです。

偽情報を拡散するアカウントに対する規制はどうあるべきか(イメージ:写真AC)

スティーブ・ダービン:興味深いポイントですね。というのも、ソーシャルメディアに一度何かを投稿すると、それはほぼ永遠に残るわけです。つまり、プラットフォームから排除することはできても、すでに出回っているデータや情報は人々に見つけられてしまう。だから、対抗するためには一度反論すれば済むという話ではなく、継続的な対応が必要になる、ということですよね。

ポール・バーテル:そのとおり。継続的なプロセスなのです。つまり、たとえすべてのアカウントを排除したとしても、新しいメールアドレスを作成することは簡単ですし、今ではスプーフィング技術を使って同じメールアカウントから「このアカウントに紐付けたスプーフィングメールを1000個作成してくれ」と指示することもできるわけです。

そうなるとこっちは、連中を徐々に弱体化していくというよりも、むしろ妨害していくことになります。つまり、少なくとも連中が継続的に情報を拡散するのを難しくにする方向に持っていこう、というわけです。

情報戦は、大規模な物理的攻撃のように、一度に大量の武器弾薬を使って破壊力あるメッセージを速射砲のように打ち込むものではありません。むしろ「千の傷による死」に近い。つまり「千の紙の切り傷による死」とでも言うべきもので、小さな勝利を積み重ね続けることが重要なのです。さらに、それをやり続けなければ、本当の意味で情報環境において優位に立つことはできないのです。

偽情報との戦いは大規模な物理攻撃ではなく、小さな勝利を積み重ね続けていくしかない(イメージ:写真AC)

スティーブ・ダービン:では、このようなソーシャルメディアの各運営会社から政府はどのような意見を聞いているのでしょうか? つまり、彼らはこの問題について協力するのでしょうか?

どうしてかと言えば、米国以外の国々では、規制や管理を一層強化する必要があるという認識の方が一般的だからです。ソーシャルメディアの運営会社は、これらの問題について明確な姿勢を打ち出し、説明責任を果たす必要があると思いますが、いかがでしょうか?

ポール・バーテル:あくまで私見ですが、国防総省内でも、ソーシャルメディアプラットフォームの各企業がそうしたアカウントを規制するよう積極的に取り組んでほしいと考えていると思います。なぜかと言えば、これらのアカウントは、米国や同盟国が民主主義や人権を支えるために世界中で行っている精力的な活動を妨害することがしばしばあるからです。

では、プラットフォーム事業者が、実際にこのような活動をプラットフォームから排除し始める動きがあるかと言えば、大きな流れはまだ生まれてはいないと思います。

というのも、非常に多くの自動発信をだいぶ以前から目にしています。そうした発信があれば、すぐさまプラットフォームから排除されるべきなのです。例えばTwitter(現在のX)では1日に700回投稿するユーザーがいれば、投稿内容に関わらず、自動的に警告されるべきです。利用規約違反だからです。

しかし、実際に規約は強制適用されていません。自動発信アカウントの調査プロジェクトに参加すると、まあひと月くらいの間に限られた数しか見られないわけですが、それでもいくつか停止されたアカウントが見つかります。ただ、証拠隠滅のために自分で削除しただけの可能性もあります。企業側に一定の努力も見られますが、対応強化は間違いなく必要です。