ネット空間の海に潜る「情報分析官」とは(イメージ:写真AC)

有害な「語り部」と組織との情報戦が始まっている

今回と次回でご紹介するポッドキャストの対話は、情報の海の潜水士ともいうべき「情報分析官」が主人公です。

デジタル情報が空気のように必要不可欠な領域になった昨今、透明度や害獣の生態など、その環境の適切さが気になり出しました。害獣というのはもちろん比喩ですが、我々が生活しビジネスをする情報環境で、どういったナラティブ(ストーリー/デマなどの「語り」)を発する獣が蠢(うごめ)いていて、回避すべきなのか、あるいは対抗策を取るべきなのか、自明ではありません。

ナラティブを適切に扱わず放っておくことで、ネット空間で炎上したり、歪曲された情報がマスコミで一方的に流されたり、藪から棒のような事態になってしまう事例が増えてきました。そうした情報の海に潜り、放置してはいけないナラティブを判別して、組織のリーダーに報告してくれる新しい仕事のフロントラインに立つのが情報分析官です。

いつものスティーブさんとの対談シリーズにご登場いただけた、第一線で活躍する情報分析官は、米国PeakMetrics社の上級情報分析官ポール・バーテルさんです。

今回見ていく対談の前半では、同氏の前職、米国国防総省の中での話を皮切りに、情報の海の状況について興味深いエピソードへと続きます。さっそく、二人の対話に耳をそばだててみることにしましょう。

(以下、引用)


偽情報との戦いに勝つための新しい仕事                     

                       Paul Bartel & Steve Durbin/ISF
                             20 January 2025
                               ISF Podcast

スティーブ・ダービン:ポールさんは実に興味深い経歴をお持ちですね。情報分析官として国防情報局に勤務された後、今は民間企業にお勤めです。実際の業務内容について少しお話いただけますか。情報分析官の仕事とはどのようなものですか?

国防情報局での情報分析官の仕事

ポール・バーテル:私が国防情報局にいたとき、実際には10年弱を中央軍で過ごし、地域分析官として勤務するとともに、物理的な作戦でも、ターゲティングなどの業務に多く携わりました。上級幹部へのブリーフィングも担当していました。つまり、マッケンジー将軍やクリラ将軍と多くの接点を持ち、さまざまなレベルの情報を提供していました。

局で7年間、私が主にしていたことは、優先すべき重大な問題や脅威を検討することでした。また、生死に関わることも多い国家安全保障レベルの意思決定に必要な最良の情報を提供していることの確認も行なっていました。

情報分析官の仕事の大半は、必ずしもすべての情報を報告することではありません。実際に意思決定に必要な情報を把握することが重要です。さらに、その情報をどのように提示するかも重要です。マッケンジー将軍と仕事をする場合なら、彼はかなり形式的なものを好みます。彼は正式な報告書を求め、それにじっくり目を通し、「よし、これでいい」と言うか、もしくは質問をしてきます。

一方、クリラ将軍は、ただ座って会話をすることを好む傾向にあるかもしれません。報告書をざっと見て「問題ない、素晴らしいが、じっくり話し合おう」となるかもしれません。ですから、情報を報告する際には臨機応変に対応する必要があります。

情報を報告する際、情報分析官にとって最も重要なこと、そして最も難しいことは、正直でなければならないということです。ですから時には「我々の業務は、思ったほどの効果を上げていません」と言わなければならないこともあります。

多くの人々にとって、これは非常に難しいことです。しかし、最終的には、彼らはその点を非常に高く評価してくれます。なぜなら、それは私たちが取り組んでいることを現実的に修正するために役立つ情報だからです。

官での経験を民間ビジネスにも生かす

ポール・バーテル:私たちはPeakMetricsに、そのアプローチを取り入れました。私は7カ月ほど前にPeakMetricsに加わり、政府機関のお客様と協力して情報環境の調査を始めました。

弊社では、ツイート、Telegram投稿、ニュース記事など、大量のデータを取り込み、LLM(大規模言語モデル)を適用して、情報環境に流れるさまざまなナラティブ(ストーリー/デマ)を洗い出します。そしてさまざまなお客様に対して、それぞれの会社にとって重要な脅威となりうるナラティブ(論調)を特定し、メッセージの伝え方を調整しつつ、誠意をもってお伝えするという同じアプローチを取っています。

ネット空間の大量の情報から組織の脅威となり得るナラティブを洗い出す(イメージ:写真AC)

たとえ物事の見方に関して多くの共通点がある戦闘司令部の仕事をしていても、報告を求める上官は「もっとこうした脅威に目を向けたい」というような、別の表現での報告を望むかもしれません。あるいは「この形式で欲しい」というだけかもしれません。

ですから、彼らと意思疎通を図り、分析結果のフィードバックループを構築し「このようなことがわかりました。この内容でよろしいでしょうか? よりよいサポートを提供するために、どのように調整すればよろしいでしょうか?」と尋ねることに多くの時間が割かれます。