【ロンドン時事】欧州の電気自動車(EV)市場が踊り場に入っている。自動車各社は環境対策のため普及に力を入れたものの、販売が失速。エンジン車に注力する方針に転換するメーカーもあるなど、EV戦略を再考する動きが出ている。
 各社は、走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しないEVのラインアップを増やしてきた。欧州連合(EU)も2035年に内燃機関車の新車販売の原則禁止を決め、EVシフトを促してきた。
 ところが、中国製の安価なEVとの競争激化や充電インフラ不足といった課題に直面。欧州自動車工業会(ACEA)によると、24年のEU域内のEV新車販売台数は前年比5.9%減の144万7934台に落ち込んだ。
 業績悪化に見舞われた独メルセデス・ベンツは従業員のリストラや製造移管によるコスト削減策を発表した。独フォルクスワーゲン(VW)は国内工場の生産停止を決め、独アウディもベルギーのEV工場を閉じた。独ポルシェは30年に新車の8割をEVとする目標は「もはや現実的ではない」と表明。エンジン車やハイブリッド車(HV)を拡充する方針に切り替えた。
 EU欧州委員会は5日、EVの普及が遅れていることや自動車業界の要請を踏まえ、低所得者に対するEV購入支援策を盛り込んだ行動計画を打ち出した。EV用電池の域内生産も後押しし、価格引き下げにつなげたい考えだ。
 ただ、苦境にあえぐ各社の追い打ちになりかねないのが、トランプ米政権が導入を目指す輸入車への25%程度の関税だ。トヨタモーターヨーロッパの中田佳宏社長兼最高経営責任者(CEO)は、高級車ブランドを中心に欧州やメキシコ、カナダから米国に輸出しているメーカーが多いと指摘。関税発動なら「各社の経営体力が弱まる」と危ぶむ。
 各社は将来的にEVの普及を見据えつつも、欧州では購入支援策の拡充が見込めない状況にある。HVなどの品ぞろえを増やして窮地を乗り切りたい考えだが、EV戦略の見直しが奏功するかは不確実だ。 
〔写真説明〕独フォルクスワーゲン(VW)の電気自動車(EV)=2024年12月、独ハノーバー(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)