人工知能(AI)開発を手掛ける中国の新興企業ディープシーク(深度求索)の最新生成AIモデルを導入する動きが、同国内で急速に広がっている。米国製に匹敵する性能とされ、AIを巡る米中の覇権争いが激化する中、中国としては先行する米国に一矢報いた格好だ。しかし、日本などの海外では中国政府への情報漏えいを警戒し、官民が規制に着手している。こうした動きを尻目に、中国政府は国威発揚につながる国産AIの利用を後押しし、熱狂の中で普及が進む。
 ◇企業200社以上採用
 ディープシークのAIモデルは低い開発コストながら、米オープンAIやメタなどと同等の高性能を実現したとされ、地元・中国でブームとなった。最新モデル公開から1カ月余で200社以上の企業が採用を宣言し、関連株は急騰した。
 電気自動車(EV)業界では、比亜迪(BYD)などが自動運転車の開発に活用する方針を表明。IT大手の騰訊(テンセント)は対話アプリ「微信(ウィーチャット)」に採用した。インターネット検索大手の百度(バイドゥ)は、AI分野ではディープシークと競合するが、同社製AIを検索エンジンに導入した。
 ◇行政機関も活用
 行政機関でも業務効率向上を目的に活用が進む。地方政府はこれまで、AIによる顔認証で治安維持などを図ってきたが、低コストで高性能なディープシーク製を行政サービスに用いる動きが広がる。
 IT都市として知られる深セン市。香港と隣接する福田区は、文書処理や役所窓口対応、企業誘致など240のサービスに試験導入した。関係者は「効率が飛躍的に向上した」と評価する。
 江蘇省鎮江市もサービスの質の向上と効率化を目的に活用を始めた。市当局者は「ディープシークの1日の情報処理能力は、市役所職員の10年分に相当する」と指摘する。
 ◇雇用悪化に拍車か
 中国では若年層の失業率が高止まりする中、ディープシークの浸透で雇用悪化に拍車が掛かる「AI失業」が深刻化する恐れが急浮上している。単純な業務を同社製AIに任せることで、人員削減に踏み出す企業も実際に出てきた。化粧品大手の上海上美化粧品は、一部作業を自動化したのに伴い、クレーム対応や新製品開発、法務の部門で従業員を50~95%圧縮する方針だ。
 専門家からは「テクノロジーが人間を代替するペースを制御する必要がある」と、急速なAI利用の拡大を警戒する声も上がっている。 
〔写真説明〕中国の新興企業ディープシーク(深度求索)のロゴマーク(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)