2025/02/08
防災・危機管理ニュース
政府が国会に提出した「能動的サイバー防御」関連法案は、ネット空間の通信監視が柱の一つだ。憲法が保障する「通信の秘密」に一定の制約を課す内容だが、政府はサイバー攻撃の被害防止という「公共の福祉」のために許容されるとの立場。法案審議では、権利と制約のバランスや、厳格な運用が担保されるかどうかが争点となる。
年末年始に発生した航空会社や金融機関の大規模システム障害など、サイバー攻撃は増加している。政府機関も標的となるため、安全保障面で連携を深める米国は日本に対処能力の強化を要請していた。
警察庁によると、日本で起きた攻撃の99%は海外が発信元だ。通信機器にひそかに仕込まれたマルウェア(悪意あるソフト)から瞬時に発動される特性上、政府は能動的サイバー防御を導入し、被害が生じる前の段階で端緒をつかみ対処する必要があると判断した。
憲法21条は「通信の秘密は侵してはならない」と定める。この対象は通信内容だけでなく日時や送受信者など通信の存在全体に及ぶとされる。政府関係者は能動的防御を「侵害そのもの」と認める。
2000年施行の通信傍受法の制定を巡っても、憲法との整合性が問われた。政府は憲法12、13条の「公共の福祉」規定から最小限度の制約は許されると主張。裁判所の令状を条件に捜査機関による情報収集を可能とした。
今回は令状によらず、独立機関「サイバー通信情報監理委員会」による事前承認が条件となる。監視の可否判断や、取得情報から人の目に触れない形でメール本文などを消去する仕組みの適正性など、監理委がどのような体制でどう監督していくかの詳細は明らかになっていない。
平将明サイバー安全保障担当相は7日の記者会見で「『通話が聞き取られる』『メールの中身が見られる』と心配する方もいるが、一切見ないし、見る必要もない」と理解を求めた。一方、共産党の山添拓政策委員長は会見で「通信監視の乱用的な使用を排除できる保証はない」と批判した。
能動的防御を巡っては、警察・自衛隊による無害化措置が他国の主権侵害に当たらないかなど、論点は多岐にわたる。立憲民主党の野田佳彦代表は能力強化の必要性を認めつつ、「いろいろ課題もある。よくチェックしなければいけない」と語った。
〔写真説明〕首相官邸=2023年8月、東京都千代田区
(ニュース提供元:時事通信社)

防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方