気候とビジネスのリスク・シナリオ-第二部:最悪のシナリオ
2030年の最悪シナリオで今回取り上げるのは、生活に密着して最も身近な小売業だ。消費者は何を我慢することになるのか。事業者は販売形態の転換が必要になるかもしれない。
スーパーと外食産業
まず、私たちにとって非常に身近なスーパーや外食産業にフォーカスしてみよう。気候変動対策の遅れは、これらの業種に深刻なダメージを与えるだろう。スーパーでは、コメや野菜などの不作、魚介類の不漁のために店頭の品揃えが乱れ、時には食品が入荷せずに一部の棚が空っぽになる。
日本が得意としてきたバラエティ豊かで高品質・低価格の食品の品ぞろえは過去の話だ。見栄えを優先した色や形のよい野菜や果物を選別する余裕はなくなり、変形したり色の冴えないものが多くを占め、1玉500円のキャベツや10個で800円の卵ケースが並ぶようになる。
在来魚の代わりに深海魚や輸入ものの見たことのない魚が並ぶ。暑い季節の長期化による生鮮食品の管理や冷蔵・冷凍食品のさらなる品質管理の徹底が必要となる。頻繁に変動する商品や在庫管理に店舗では頭を悩ませる機会が増え、作業負担が増えるだろう。
そもそも気温の上昇で季節感が変わり、例えば、寒冷地域での冬季商品の需要が減少する一方で、かつて温暖であった地域は熱帯性の気候を帯びるようになって、激変する商品ニーズの対応に迫られる。
外食産業も例外ではない。異常気象の増加は食品流通を妨げ、メニューとして予定していた食材の調達がストップする事態も増える。これに食品原材料の高騰が加わる。多くの食品は気候の影響を受けて流通が不安定になるため、天候に左右されにくい食材の選定や、臨機応変なメニューの開発と調達が求められる。これは人手とコスト増にもつながり、そのまま価格の値上げにつながる。
さらには、環境負荷の高い肉牛由来の食品が段階的に減少し、あるいは敬遠され、植物や昆虫由来のタンパク質を含む食品が増えていく。外食産業は定番かつ最も収益率の高いハンバーガーやステーキといったメニューを減らさざるを得ないが、利益を確保するためには、代替肉を使ったメニューの開発や調達を急がないと生き残れなくなるだろう。
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