東京都23区内の各自治体は、災害への対策に対して各地域に即した体制で過去の経験を活かしながら取り組まれています。地形、災害経験などハード・ソフト面の特性は一つとして同じ地域はありません。それぞれの地域で予測されていること、予防計画、また、今後の取り組みなど現在の状況を各行政区の方々、地域で防災に関する活動をされている方々に伺い、お伝えしていきます。ご自身が住んでいるまちのことはもちろん隣町や連携する可能性があるまちのことを改めて知っていただける機会となるよう取材を続けてまいります。
港区は、人口24万3639人(2018年1月1日現在)のうち、6階以上かつ50戸以上の共同住宅、いわゆる高層住宅は約700棟に上り、約10万世帯が居住しています。「在宅避難」が原則の中、居住者はマンション内で自らの力で災害時を乗り越える対策を取らなければなりません。区内で懸命に活動を続ける2棟のマンションにお邪魔してまいりました。
まずは、平成18年築48階建て総戸数約1100戸の芝浦アイランドケープタワー防災ワーキングチームの木股久美子さん、中野宗彦さん、管理人の松山直義さんにお話をお伺いしました。
約3000人の居住者全員が主役であり、当事者という意識の醸成
防災ワーキングチームは現在約15名で活動中。4年前、管理組合の理事会で防災対策における手薄さが課題として上がり、理事会の諮問機関として理事および有志でワーキングチームを作ることが決まり、設立しました。「理事会内の防災担当理事がワーキングチームにも加入し、理事会との連携を図ります。決定事項などは、理事会の承認を得て進めています」と木股さん。防災に関するイベント、訓練の企画・運営を中心となって進められています。
2016年5月、住民向けの防災に関するクイズとアンケートを実施、160名の回答を得ました。
回答があったアンケートのうち、120点満点の方が2名、多くの方が40点〜60点台。0点の方もいるという現状を知り、危機感を改めて感じて活動を加速。年に一度の訓練に、トランシーバー訓練や子どもが喜ぶ工作企画など手を変え品を変え、企画を遂行しました。
すると、訓練参加者は、約40名だった3年前から去年には約160名と4倍に。「まだまだです。今年は200名体制にしたい」と語る木股さんは、住民への呼びかけ方法を常に模索しています。
「自分たちでやらないといけない。いざとなったら自分たちで乗り越えるんだ、という気持ちが一番大切。」と語るのは、防災担当理事としてワーキングチームに加入した中野さん。
「2016年のアンケートでは、40〜60点の一人でした。抽選で防災担当理事になり、防災士の存在を知り、退職してから時間もあるし、防災について体系的に知るのもいいかなと思い、受講しました。実際に災害が発生した時に我々ができることはその時にならないとわからないけど、自助・共助の考え方を事前に伝えておくのが我々の使命だと思っている」と、今では防災士の資格も取得し、懸命に取り組まれています。
訓練への参加者が増え続けている一つのきっかけは、「安否確認シート」の配布。「全住戸にシートを投函してしまうと、その場で捨てられてしまうかもしれない。そうならないように、管理人室に取りに来てもらうようにしました。一度の投函では来られない方もいらっしゃるので、二度、三度、呼びかけ続けました。残るは100戸となり、個別訪問を実施。すると中には、日本語が読めない外国人もいらっしゃることがわかりました。各世帯に説明をし、出張などでいらっしゃらない住戸など残すは5%というところまで来ました。友人宅に遊びに行ったりすると玄関前にシートが貼ってあると、すごく嬉しいですね」(木股さん)。ワーキングチームの方の丁寧な活動が実を結び、住民一人ひとりの意識に変化が見えてきています。
意識の変化が見られると同時に課題も出てきています。「いざ災害発生時に災害対策本部を立ち上げ担当してくれる居住者がどのくらい集まってくれるかが課題です。本部は1階で立ち上げるので、低層階を中心に本部員の募集をし、全居住者の防災訓練とは別に本部員だけの訓練を行っています。また、災害時に誰がマンション内にいるかわからない中で、その場にいた人が、リーダーとして動かないとならない状況になります。そのとき、集まったおばちゃん、おじちゃん、中学生など、誰でも動くことができるように各階倉庫に、トランシーバーやマニュアルその他を用意し、誰でもできるようにしました」(木股さん)。
「マンションで生活していると、あれが不便とか、日頃、目につきやすいことは気づくもの。しかし、防災は起きた時に初めて事前の備えのありがたみがわかる。足りないことがわかる。日頃はほとんど気にもしないこと。でもときどき、刺激を与えて、皆さんに訴え続けることはずっとやり続けないとならないと思っています。おせっかいにならない程度に伝え続け、一人ひとりの意識の底上げができるかどうかが永遠の課題です」(中野さん)。
ご自身も防災担当理事になるまでは、防災を意識していなかったこともあり、浸透が難しいことを実感しながら挑戦を続けられています。
活動を続ける根本にあるものは、一人ひとりの大切な命を守るため
日々の生活で忙しい中、地域で防災の活動を続ける方にとって、なかなか住民の方一人ひとりに伝わらず、訓練の参加者も増えなくてやめてしまいたくなる時もあると思います。それでもあきらめずに活動を続ける理由をお伺いしました。
「3.11のときに揺れて、恐怖を感じ、出口の確保を!と思い、廊下に出ると、誰もいなかったのです。その状況が本当に不安でした。その時誰か一人でも気持ちを分かち合える人が側にいたら、どれだけ安心したか。これは状況を変えて、自分の命を守るためにも一緒に乗り越えられる環境を作らないとならないと思ったのです」と木股さんは語ります。被災経験から目の当たりにした現状を打開するために今でも活動を続けておられます。
また、中野さんは「現役時代はマンション内のこと、地域のことなど興味がないわけではなかったが、何もできませんでした。今、時間ができたからには、今まで何もしてこなかった罪滅ぼしではないですが、恩返しができればと思っている」と地域への想いを語ってくださいました。
また、日頃から住民の方と触れ合い、マンションを守ってくださっている管理人の松山さんは、「大きな災害があったときには、一人のけが人も出さずになんとかしてさしあげたいなと思っている。そのためにベストを尽くしていきたい。」と日頃からお話をしている住民の方全員が主役であり、その命を守りたいという強い考えがあってこその決意表明をしてくださいました。
住民お一人お一人の当事者意識が約3000名全員に浸透するまでの道のりは長いですが、ワーキングチームの方々の勢いは止まりません。一人、二人、三人…と意識の変化が浸透し、いざという時の助け合いが生まれるには、足を使って、個別訪問をするなど日頃のワーキングチームの方々の地道な活動が支えているということを強く感じました。
防災意識の底上げは、日頃の地道な活動が支え、いざという時の支え合いにつながる。その時にしかわからない成果を目指して、今も活動を続けておられます。
この声がマンション住民全体そして他のエリアのマンション住民の方々に届きますように…。
次回は、同じく港区の約180戸の分譲・賃貸混合のマンション防災に取り組む、「三田シティハウス」の皆様の取り組みをご紹介します。
(了)
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