2024/10/29
防災・危機管理ニュース
◇北極が示す未来
「10年前、この辺りは分厚い氷で覆われていた」。海氷域航海の専門家が指さした先には、溶けかけのシャーベットのような海氷がぽつりぽつりと浮いているだけだった。世界で最も速く温暖化が進む北極では、既に生態系や人々の生活に変化が起き始めた。それは、日本がそう遠くない未来に直面する現実でもある。北極は何を教えるのか。第3部では、北極からもたらされる環境変化を探る。
「地球を救う猶予はあと2年」。国連気候変動枠組み条約のスティル事務局長は4月、地球温暖化の進行に警鐘を鳴らし、各国に一層の対策を呼び掛けた。気温上昇に歯止めをかけるには、2025年までに温室効果ガス排出量をピークアウトさせる必要があるとされるが、削減の動きは鈍い。世界各地では異常な熱波に加え、豪雨や豪雪、森林火災が頻発するなど「気候崩壊」が加速。専門家は、北極の温暖化がその一因と指摘している。
◇史上最も暑い夏
世界気象機関(WMO)は、昨年の世界の平均気温が観測史上最も高かったと発表した。今年も気温上昇は止まらない。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」によれば、北半球の夏に当たる6~8月の世界の平均気温は、観測史上最高を更新。サウジアラビア西部のイスラム教聖地メッカでは6月に50度を超え、巡礼者1300人以上が熱中症で死亡した。
一方、冬季に大寒波が襲来した地域もある。米北西部モンタナ州は1月、氷点下40度を下回る寒さに見舞われた。
大雨の被害も深刻だ。中国では5~8月に洪水や土砂崩れが相次ぎ、多数の死者が出た。ブラジルやアフリカでも豪雨が発生し、死者は数百人単位に上る。
◇雪氷減少の悪循環
温室効果ガス排出が主要因の温暖化は、地球全体を冷やす「ラジエーター(冷却装置)」の役割を担う北極の雪氷減少によって加速している。国立極地研究所は、今年の北極海の海氷面積の年間最小値は407万平方キロだったと発表。1980年のおよそ半分に減少した。
北極が温暖化すれば偏西風の蛇行幅が大きくなるとされる。偏西風が南に蛇行した地域では、北極域からの寒気流入によって大寒波が襲来。反対に北に蛇行した地域では、南からの暖かい空気が流れ込み熱波をもたらす。新潟大の本田明治教授は、蛇行が強まることで上空に発生する低気圧「寒冷渦」が大気の状態を不安定にし、豪雨などの異常気象を引き起こすと説明する。
異常高温に伴う大気の乾燥で、ロシア・シベリアなどでは森林火災が頻発している。東京大先端科学技術研究センターの中村尚教授は、火災で発生した微粒子が北極に降り注ぐことで雪氷の融解を招き、さらに温暖化を進行させる悪循環を生み出していると分析する。
◇30年以降は手遅れ
15年に採択された温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、世界平均気温の上昇幅を産業革命前比で1・5度以内に抑える目標を設定。しかし、コペルニクス気候変動サービスによれば、23年には1.48度と、パリ協定の上限に迫った。国連のグテレス事務総長は「われわれは気候崩壊の真っただ中にいる」と警告する。
中村教授によると、北極の海氷減少速度はこのところ鈍化している。ただ、現在は「さらに温暖化が進む前の移行期」とみて、再び減少に転じる可能性があるとも予想する。国連気候変動枠組み条約のフィゲレス元事務局長は「30年までに取る行動が、人類と地球の未来を左右する。それ以降だと手遅れになる」と強い危機感を示していた。
〔写真説明〕国連気候変動枠組み条約のスティル事務局長=4月10日、ロンドン(AFP時事)
〔写真説明〕サウジアラビア西部のイスラム教聖地メッカで日傘を差す巡礼者=6月13日(AFP時事)
(ニュース提供元:時事通信社)


防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方