2024/09/30
防災・危機管理ニュース
茨城県東海村の核燃料加工会社ジェー・シー・オー(JCO)で作業員2人が死亡、地元住民ら660人以上が被ばくした臨界事故は、30日で発生から25年を迎えた。当時、村長として周辺住民の避難を指揮した村上達也さん(81)は、「国は事故が起こらない前提で原子力の利用ばかり考え、事故が起きたらどうするかには力を入れていない」と指摘する。
公用車で隣の栃木県に出張中だった村上さんは、事故発生から約1時間半後の昼すぎ、助役からの電話で「臨界事故が起きた」と知った。当初は「全然ピンとこなかった」が、村近くまで戻ると警察官が道路を封鎖しており、役場は村民やマスコミが集まって戦場のような状態。次第に事態の深刻さを実感していった。
通常では考えられない高い数値の放射線が測定される中、JCOから「約350メートル圏内の住民を避難させて」と要請を受けた。当時の科学技術庁とは連絡がつかず、県にはまだ対策本部が立ち上がっていなかったが、一刻を争う事態に「独断専行でいこう。自分は糾弾されても構わん」と腹をくくった。
防災無線を使うとパニックを招くと考え、村職員が車で周辺住宅約50軒を個別に回った。結果として避難完了は夜中になった上、作業中に被ばくした職員も出たことに、「私にも責任がある」と悔やむ。
その後、臨界事故の教訓が生かされることはなく、2011年には東京電力福島第1原発事故が発生。村上さんは現役の首長として脱原発を訴えるようになり、「脱原発をめざす首長会議」を12年に結成した。ただ、当初は現役首長が7割を占めたものの、その後は比率が逆転して元職が多数派となり、近年は活動が低調気味という。
東海村でも日本原子力発電東海第2原発の再稼働に向けた動きが進んでいる。「25年たつとJCOと聞いて分かる人も減ってきた」という村上さん。「明治以来、欧米の科学文明に驚いて殖産興業を進めてきたが、いまでもブレーキのない社会のままだ」と話している。
〔写真説明〕JCO臨界事故発生時の状況について話す茨城県東海村の元村長村上達也さん=27日、同村
(ニュース提供元:時事通信社)

- keyword
- JCO臨界事故
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
-
能登半島地震の対応を振り返る~機能したことは何か、課題はどこにあったのか?~
地震で崩落した山の斜面(2024年1月 穴水町)能登半島地震の発生から1年、被災した自治体では、一連の災害対応の検証作業が始まっている。今回、石川県で災害対応の中核を担った飯田重則危機管理監に、改めて発災当初の判断や組織運営の実態を振り返ってもらった。
2025/02/20
-
-
2度の大震災を乗り越えて生まれた防災文化
「ダンロップ」ブランドでタイヤ製造を手がける住友ゴム工業の本社と神戸工場は、兵庫県南部地震で経験のない揺れに襲われた。勤務中だった150人の従業員は全員無事に避難できたが、神戸工場が閉鎖に追い込まれる壊滅的な被害を受けた。30年の節目にあたる今年1月23日、同社は5年ぶりに阪神・淡路大震災の関連社内イベントを開催。次世代に経験と教訓を伝えた。
2025/02/19
-
阪神・淡路大震災30年「いま」に寄り添う <西宮市>
西宮震災記念碑公園では、犠牲者追悼之碑を前に手を合わせる人たちが続いていた。ときおり吹き付ける風と小雨の合間に青空が顔をのぞかせる寒空であっても、名前の刻まれた銘板を訪ねる人は、途切れることはなかった。
2025/02/19
-
阪神・淡路大震災30年語り継ぐ あの日
阪神・淡路大震災で、神戸市に次ぐ甚大な被害が発生した西宮市。1146人が亡くなり、6386人が負傷。6万棟以上の家屋が倒壊した。現在、兵庫県消防設備保守協会で事務局次長を務める長畑武司氏は、西宮市消防局に務め北夙川消防分署で小隊長として消火活動や救助活動に奔走したひとり。当時の経験と自衛消防組織に求めるものを聞いた。
2025/02/19
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/02/18
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方